音色・・・はじまりの夏。

猫野 尻尾

第1話:音無 音色。(おとなし ねいろ)

僕は、毎日の通勤電車の中にとても気になる女子高生がいた。

彼女は僕が勤める会社と同じ隣町の桜が丘女学院の生徒。

他校とは違うオシャレな制服でそうだと分かる。


彼女は髪が肩の下まであってとても可愛い・・・うん、可愛いと言う表現しか

見当たらない。

通学電車の中で、いつも本を読んでる・・・そして時々視線を窓の外に向ける。


その拍子に少し乱れた髪をかきあげる。

その仕草がたまらなく僕の心をくすぐる。


彼女とは半年前から、ずっと同じ電車に乗ってる。

初めて彼女を見た時、僕の時間が一時的に止まった。


半年も同じ電車に乗ってると僕の存在くらいは彼女でも

知っていて、たまに僕と目線が合うと軽くお辞儀をしてくれる。


それだけで胸がときめく僕・・・。

でも僕は声すらかけられずいつも遠くから彼女見てるだけ・・・。

気になってしょうがないけど声をかける勇気がでない。

って言うか、いち社会人と女子高生なんてありえないだろうって思っていた。


それに、もし声をかけて引かれたら、これから電車の中で会っても

めちゃ気まずくなるって思うと一歩がどうしても踏み出せない。


あ、申し遅れましたけど、僕名前を「音喜多 悠真おときた ゆうま」って言います。

一応、隣町の広告会社で、デザイナーやってます。

歳は25才。

田舎の母親からは、そろそろ結婚をとしつこく打診されている。


で、朝、僕が駅につくと彼女はいつもひとりホームのベンチに座って本を

読んでいる。


そんな気になる彼女を見つめたまま日々が流れ暑い夏がやってきた。

このまま淡い恋心、片想いで終わるのかな・・・漠然とした想い。


何度彼女の前に立って声をかけようか迷ったことか・・・。

結局なにもできず、なにも言えずな情けない毎日だった。


相手が女子高生ってのがどうしても一歩踏み出せない原因でもあった。


その日は朝から暑い日でベンチに座っていた彼女は持っていたハンカチで

自分のおデコをしきりに拭いていた。

電車がホームに到着して彼女が立ち上がった時スカートのポケットに

しまったはずのハンカチがベンチの上に落ちた。


彼女は落ちたハンカチに気づかないまま電車に乗りこんだ。


僕はなんの狙いもなく、ただ(拾ってあげなきゃ)と思ってハンカチを

拾って急いで彼女の後を追って電車に乗りこんだ。


で、彼女にハンカチを渡した。


「あの落としましたよ・・・ハンカチ」


「あ、ありがとうございます」


彼女は僕の顔を見てから、お礼を言った。


(か、可愛い・・・)


「あの・・・よ、横に座っても?」


「え?・・・ああどうぞ」


そう言って彼女は僕が座ろうとした場所から少し横に移動して僕が

ちゃんと座れるよう隙間を空けてくれた。


「ありがとう・・・」


でも、それ以上・・・なにも言葉がでない。


(しっかりしろよ・・・チャンスじゃないか、なにか話せ・・・)


「あ、あの毎日暑いですね」


「はい・・・」


「あ〜〜っと・・・その、あの、ああそうだ」

「いつも本読んでらっしゃいますけど本が好きなんですね・・・」


(そんなことどうでもいいだろ・・・)


「通学時、時間ありますから・・・」


「えと〜・・・どんな本読んでるんですか?」


「かなり前の小説です・・・面白かったから読み返してるんです」


そう言って彼女は本の表紙を僕に見せてくれた。


「ああ、これ僕も読んだことあります!!」


僕がいきなり大きな声を出したもんだから周りの乗客にジト目で見られた。


「ご存知なんですか?」


「読みました、その小説」

「こののシリーズは僕も好きで何冊も持ってます」

「面白いですよね・・・」

「そ、そういう本に興味が、あるんですか?」


「私、ファンタジーとか好きなんです」


僕はてっきり、文学的な小説を読んでるのか思っていた・・・そんなイメージ

だったし・・・。

完全に裏切られた。


「じゃ〜メラドニア国戦記は?」


「はい、読みましたよ」

「コミックの方も・・・」


「うそ・・・僕も持ってます・・・僕も著者のファンです」

「挿絵の画集も持ってます」


「私も・・・」


こういうのをなんていうんだろう・・・意気投合?


つづく。

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