悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-28 激突! 火の大神官 vs 剣豪皇帝!(5)
13-28 激突! 火の大神官 vs 剣豪皇帝!(5)
「より強力な術式を使うための時間稼ぎが不可能!」
これが三人の出した結論であった。
アスプリク、アスティコス、ライタン、ここにいる三名は王国内では、文句なしの最上位の戦力と言っても過言ではない。
アスプリクは間違いなく最強の術士であるし、他二名も十指に入るほどの腕前の持ち主だ。
だが、近接戦を執り行えるのが、アスプリクしかいないという弱点が今回の編成であった。
本来なら、これは問題にすらならない。なにしろ、今回は“戦”であり、大規模集団戦を想定しての編成であるからだ。
集団戦であれば“壁役”となる兵士がいくらでもいるし、それの後ろから術式を相手陣営に叩き込むと言うのが想定されていたやり方だ。
もちろん、皇帝が前に出て来た際には、これを仕留めるために突貫することも考えていたが、皇帝の実力がその想定をすべて吹き飛ばしてしまっていた。
(時間稼ぎが出来なとなると、僕の持つ“最強の術式”を放つのは不可能! ああ、手詰まりだ、これは)
もし、アスプリクが術の詠唱を始めた場合、ヨシテルは確実に斬り込んでくる。悠長に待ってくれるほど、目の前の皇帝はお人好しではない。
そうなると、今度の壁役はアスティコスとライタンの二人で行うが、まず不可能だ。
ライタンは術士であって戦士ではない。
アスティコスに至っては、素手のヒサコに一方的にボコボコにされるほどに、近接戦が苦手だ。術士や弓手としては優秀でも、距離の詰まった戦い方はからっきしだ。
そんな二人では、剣豪ヨシテルの猛攻を防ぐことができない。
本来なら、小規模の術式や回避に専念し、時間を稼ぐことができるかもしれないが、それを無視して突っ込める桁外れの再生能力が厄介であった。
多少の損傷を無視し、そのまま詠唱中で無防備になっているアスプリクを斬れば終わる話であるからだ。
今回の場合、時間稼ぎとはヨシテルと斬り合う事を意味しており、それができない以上、アスプリクを守る壁役としては失格なのだ。
(つまり、どう足掻いても勝ち目がない! 壁役がいれば、あるいはだけど)
だが、アルベールは傷ついたルルを連れて城砦に引き上げていた。
現状の戦力ではどう足掻こうとも、ヨシテルの再生能力を超えた一撃を叩き込むことができない。それがアスプリクの結論であった。
もちろん、他二名もその結論には異論なかった。
ゆえに、すぐに行動に移った。
すなわち、“撤退”である。
三人はすぐに【
「おや? 尻尾を撒いて逃げるのかね? 三対一という優位性がありながら、敵に背を見せるか、火の大神官よ」
ヨシテルは宙に浮かぶ三人を見上げながら、挑発的な笑みを浮かべた。
ヨシテル自身は術士ではなく、地べたで戦うしかないため、刃の届かない位置にいる相手には近付くか、あるいは逆に近付いて貰わなくてはならなかった。
それが分かっているからこそ、逃げるに際してはまず宙に浮いたのが三人であった。
「生憎だけどさぁ、皇帝のその再生能力、そいつを突破する方法が現状ないわけなのよ」
「そうかね? あるいは一発叩き込めば、解決する問題やもしれんぞ?」
「その一発が果てしなく遠いんだよ。ったく、さっきの攻撃で涼しい顔して立っているなんて、どんな肉体してんのよ」
アスプリクが悪態付く間に傷は完全に癒え、刀を握ったまま棒立ち状態であった。
強烈な一撃を浴びたにもかかわらず、その痕跡は一切見受けることができない。壊れて散らばった鎧の欠片だけがそれを伝えていた。
「それほどでもない。何しろ、今の我は“魔王”なのだからな。常人のそれと一緒にされるのは、安く見られているようでいささか不愉快だ」
「ええ、そうだね。そっちを安く見ていたのは事実だよ。でも、その認識が甘かったと理解したからこそ、こうして“逃げ”を打ったってわけ」
「三十六計逃げるに如かず、か。まあ、勝てぬ相手に無理に突っ込んで、被害を拡大させるのは愚の骨頂ではあるな。だが、王国最強の汝が三対一で戦い、なお逃げ出したとあれば、そちらの士気に影響すると思うが、それでも引くかね?」
ヨシテルの指摘と挑発は続いた。その点はアスプリクも思い至らないでもなかったが、それよりも自分自身が死の危険に晒され、かつ勝てる見込みがない事の方が問題であった。
士気低下も止む無し。今は増援を待ち、相手の攻めを凌ぐのが最良だと考えた結果だ。
「そこまで心配してもらうほど、落ちぶれちゃいないわよ」
「そうか。では、その内に再戦と行こう」
「今度はヒーサも連れて来るよ」
何気ない一言であったが、ヨシテルには苛立ちをさらに高める結果になった。
なにしろ、今こうして復讐の炎を燃やし、刀を握っているのは、ヒーサこと松永久秀への報復以外のなにものでもないからだ。
「さっさとあやつに来るように伝えろ! なます切りでは済まさんくらいに細かく切り刻んでやるから、事前に墓穴でも掘っておけとな!」
「ん~、ヒーサなら、こう言うんじゃないかな? 『墓穴は掘るが、墓標にはお前の名前を書いておく』ってな感じで」
「ああ、いかにもな台詞だ。だが、減らず口を叩けるのも今だけだ、とも伝えておけ!」
「はいはい。んじゃ、また会う日まで~」
アスプリクは手をヒラヒラさせて更に上空へと飛び上がり、一目散に城砦へと戻っていった。
他の二人もこれに続行し、飛んでいった。
こうして、王国、帝国双方の最高戦力同士の激突は、帝国側が圧倒する結果に終わった。
兵数の被害であれば帝国側が大きいが、それ以上に皇帝の実力を双方に陣営の兵士に至るまで知らしめた点は大きかった。
「皇帝陛下万歳! 我らの最強の戦士よ!」
最強であることこそ、帝国の皇帝の証であり、それを再び示した。我らの皇帝こそ、まさに最強である、と。
帝国側の将兵の喝采がどこまでも響くのであった。
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