13-17 抜刀! 剣豪皇帝の一閃!
「いざ尋常に勝負!」
皇帝ヨシテルの一声により、最後の激突が開始された。
居合の構えで微動だにしないヨシテルに対して、まず突っ込むのはルル、次いでアルベールだ。
ヨシテルには桁外れの再生能力が備わっていると、二人は確認した。氷の弾で吹き飛ばした耳が、時間を逆行させたかと思うほどの速さで寸分違わず元通りになった。
そんな能力の持ち主相手に、ちまちま遠距離戦を挑むのは愚の骨頂と言うべき事だ。
削りが効かない相手であるならば、近接戦で一気に決めに行かざるを得ない。と言うのが二人の結論であり、そのために“
(長期戦は不利! ならば、一気に決めに行くわ!)
(渾身の一撃を叩き込んでやる!)
兄妹の息はピッタリであり、術士のルルがまず全力で相手の一撃を止め、技後の硬直を狙ってアルベールが斬り込む。これが基本姿勢だ。
ゆえに、まずはルルがヨシテルの一撃をいなす事が大前提であった。
(あの強烈な一撃、えっと【秘剣・
ヨシテルの刀は鞘に収まっており、構えも初めて見る“居合”の構えのため、“間合い”がどの程度なのか掴めていなかった。
それゆえに、ルルはこの一撃をかわせないと判断した。
(だったら! 受けて、耐える!)
これがルルの選択、文字通りの“盾役”だ。
ヨシテルに向かって走り、そして、展開した。
それは“分厚い氷の盾”と評すべき物だ。
飛び込む自身に攻撃しようとした場合、必ず盾に当たる。それほど大きな盾であった。
(間合いが掴めない以上、回避は無理! 受けて、耐える! 大質量に体当たりされて、体勢が崩れれば、なおヨシ! あとはお兄様が決める!)
重厚な氷を精製し、さらにいくつもの術式を編み上げて徹底的に強度を上げた。
“大質量かつ硬度強化した氷塊による
これこそルルが、この状況における最適解だとして導き出した解答だ。
アルベールもルルが氷塊を、走りながら精製した段階でこれに気づいた。
(あとは、どのパターンかだ!)
アルベールも魔力のこもった剣を握り、ヨシテルの一挙手一投足に意識を集中させた。
氷塊に斬撃するのか、それによって体勢が崩れるのか、あるいは構えを解いて回避するのか、いくつものパターンが考える事ができた。
“どれ”なのか、それは開けてみねば分からない。分からないからこそ、意識を集中させる。
突っ込む二人は、どのパターンが来てもいいように、更に集中力を高めた。
それに対するヨシテルの選択、それは紛れもない“真っ向勝負”であった。
構えはそのまま。眼前に現れた氷塊にも臆する事なく、それは放たれた。
((正面からの斬撃!))
二人は動いたヨシテルを見てそう判断した。
だが、それは二人の予想を遥かに上回る、“正面からの斬撃”であった。
間合いを掴ませぬ居合の技は、まさに“神速”と称すべき斬撃だ。
鞘から抜き放ち、横一閃の薙ぎ払い。一連の動作があまりに滑らかで、無駄のない洗練された動きであった。
文字通りの意味で目に止まらず、初めから盾を構えていなければ、決して受けられない程に速かった。
だが、その斬撃は速さ、鋭さは文句のつけようもない一撃であったが、氷の盾に止められた。
大質量かつ硬度強化がなされた氷塊は、ヨシテルの居合と『
(よし、勝った! あとはお兄様が決める!)
このまま重量で押し切れればヨシ。そこまで行かずとも動きが硬直してくれれば十分。
それ故の勝利の確信であった。
だが、今のヨシテルは仮にも“魔王”を名乗っているのだ。それほど甘くはなかった。
刀と氷の衝突点、そこより眩い電光が走ったのだ。
氷塊を貫き、ルルを絡め取って、そのまま意識を断ち切った。
そして、持ち手の力を失った氷の盾は、再び力の戻った斬撃によって押し切られ、形そのままにルル共々ふっ飛ばされた。
アルベールはルルの横をすり抜けて、走る勢いそのままに、ヨシテルに剣を突き入れるつもりでいたが、それが破綻した瞬間でもあった。
盾が相手の斬撃を止めたと思ったら、電撃による第二撃が加わり、考えていた盤面を崩壊させた。
しかも、吹き飛んだルルと氷塊がアルベールにかすめるように吹き飛んだため、斬り込もうとする意識もそちらに取られた。
ほんの一瞬の迷い。しかし、アルベールは妹の作った好機が損なわれると考え、構わずに前へと踏み出した。
その僅かな思考時間ではあったが、ヨシテルには十分過ぎるほどの時間となった。
居合からの横薙ぎ一閃、そこから踏み込んでの突きを放った。
そして、激突。互いの突きと突きがぶつかった。
剣先同士が衝突したが、結果はすぐに出た。
アルベールの剣が粉々に砕けたのだ。
しかも帯びていた氷の魔力が跳ね返り、持っていた腕は酷い凍傷にみまわれた。
そこに更なる追撃が入る。
武器が失われ、凍傷に顔を歪めるアルベールに、ヨシテルは突進する勢いのまま、前蹴りを入れたのだ。
鎧がへしゃげ、足形が付くほどの威力があり、アルベールはふっ飛ばされた。
鎧のおかげで命拾いしたが、なければ臓物がグチャグチャにされていたであろう程の蹴りだ。
もはやまともに、立つことすらできない程の重症であり、根性で意識をギリギリ保っている状態であった。
その横には意識を絶たれたままのルルが転がっており、どうにか生きているのを確認できた。
二人の連携、作戦はこれ以上に無いものだったが、皇帝はその上を行った。
完全な力負けであった。
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