悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
12-54 決着! お前には玉座に座る資格はない!
12-54 決着! お前には玉座に座る資格はない!
「こちらが前線で踏ん張っている時に、お前達は何をしていた!?」
ヒーサの投げかけにまともに答えられる者はいなかった。
前線が踏ん張ってくれているのだから、特に動きもなく高みの見物。それこそ、帝国とシガラ公爵家が削り合ってくれれば御の字。
こう考えていた者も少なくはないのだ。
だが、それが回り回って、現在の不利な状況を生み出していた。
「殿下、あなたは来なかった。ヒサコを始め、コルネス殿、それにアルベール、サーム、他にもアーソの兵士達は実によく働いてくれた。その武功は揺るぎなく、見事に王国の壁として、外敵を防いでくれました。しかし、そこにあなたの姿はなかった。なぜですかな?」
「そ、それは……」
「言わずとも結構! 大方、ブルザーに
ズバッと言い切るヒーサに、サーディクは返す言葉もなかった。
サーディクは将軍として前線付近に駐留し、アーソとは別の場所ではあるが、時折略奪に来る帝国側からの侵入者の対処をこなしてきた。
そのため、前線の将兵からは人気があり、王族としての責務を果たしてきたと言っても良かった。
しかし、今回ばかりは間が悪すぎた。
アーソでの動乱の際、ブルザー率いるセティ公爵軍と帯同して進軍した際に、黒衣の司祭リーベの襲撃を受け、それなりの損害をこむった。
サーディクの部隊はすぐに再編できたが、ブルザーの方は損害が深刻であり、乱後もその再建には時間を要した。
その最中に、ヒサコによる帝国領への逆侵攻が敢行されたのだ。
サーディクも当初は馳せ参じるつもりでいたが、これに待ったをかけたのがブルザーであった。
「どうせあのような小勢では、ロクな戦功など上げれませんし、最悪すり潰されるオチです。こちらがその列に加わる必要もありますまい」
これがブルザーのサーディクに対しての耳打ちであり、親しい付き合いのある者の発言として、これを受けてしまった。
実際、たった五千程度の兵で、十万はいるとされる帝国軍に突っ込むなど、正気の沙汰ではなかった。
負ける可能性の方が遥かに高いし、破れた際はアーソで戦線を引き直す必要があるため、自身の兵力を無駄に出すわけにはいかないと言う判断もあった。
だが、その判断が裏目に出た。
なにしろ、負けると思っていたヒサコの軍勢が大勝利を収め、完全に面目を失ったのだ。
「まあ、最初からいきなり参陣するというのは、アーソでの被害の件もありますし、難しいと言えば難しいでしょう。ですが、その後の援軍要請にも応じず、引き籠ったままというのはいただけませんな。私からすれば、妹も、前線の将兵も、“見殺し”にされたも同然なのですから。兵も出さない、物資も出さないで、どう取り繕われるおつもりかな?」
嫌味ったらしいヒーサの台詞が、一々癇に障り、サーディクを苛立たせた。
だが、反論はできない。どれほど苛立たせる言葉であろうとも、それは正論に他ならないからだ。
「殿下、たとえ兵を率いずとも、単身で参陣なさっても良かった。王族としての責務を全うするという意気込みだけでも十分だったのです。それが一時の感情と“外戚”の意に従い、王族の責務を
ヒーサはこれでもかと怒りを込めて、サーディクを面罵した。
彼を良く知る面々ですら、完全に騙された怒り。演技でもなんでもなく、珍しくも“本気”で怒っているのだ。
ヒサコによる帝国への逆侵攻も、本来ならもう少し楽になる予定であった。
だが、そうはならなかった。原因は“増援の少なさ”に起因していた。
軍の衝突とはまさに数の戦いであり、より多くの兵士を揃え、数で圧倒するのが本来の用兵なのだ。
ところが、アーソの地にはその兵が一向に到着せず、手持ちの兵だけでやりくりする事を強いられた。
その可能性は憂慮していたが、十万相手に五千で戦うなど、今にして思えばかなりの冒険であり、同時に暴挙とも言えた。
もう一度やれと言われても、俄然拒否する話だ。
サーディクが小部隊であっても参戦さえしてくれれば、その看板を利用して兵をより多く集めることが叶ったとヒーサは見ていた。
だが、サーディクは来なかった。届けられた物資は、一握りの小麦すら届くとはなった。すべてが、シガラ公爵家からの持ち出しか、あるいはジェイクのそれなのだ。
サーディクは一切関わっていない。自身が参列することも、あるいは物資を送り届けると言う事もなく、身内の心情を
これで怒るなと言うのが無理であり、ヒーサの怒りは当然だと周囲も納得せざるを得なかった。
これで決着はついた。玉座への道程、もう遮る者も、競争相手も、すべて排除された。
こうして皆が見守る中、ヒサコは“新国王マチャシュ”を腕に抱き、ゆっくりとした足取りで上座にある飾り立てられた玉座に向かって歩き始めた。
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