12-39 審理再開! 今度こそ真相を求めて!(3)

「それについては、私が証言いたします」



 ここで声を上げたのは、アスティコスであった。


 それに応じるかのように、ヨハネスもまたアスティコスの前に移動した。



「では、エルフよ、その証言とやらを聞こう」



「私とアスプリクは、ヒーサに先んじて、王都に来ていました。法王と宰相との事前交渉、橋渡し役としてです」



「だな。それは私も承知している」



「で、その際に、逗留先として、シガラ公爵家の上屋敷を宛がわれており、それについては、ヒサコからの手紙もあります」



 アスティコスは懐にしまい込んでいた手紙を差し出した。


 ヨハネスはそれを確認すると、確かに上屋敷の人間に充てた手紙であり、アスプリクに便宜を図るようにと記されていた。


 文末にも、ヒサコの花押サインがあり、どうやら間違いなさそうであった。



「なるほどな。では、酒云々の証言について、二人が“本当の事”を語りながら、矛盾が生じている理由とは何か?」



「すでにお話している事ではありますが、ええっと、その、アスプリクとヒーサは、こいな……、あ、いえ、し、親しい関係にあります」



 かなり苦しい話し方であるが、アスティコスとしてはこれが限界であった。


 可愛い姪っ子が、あの悪魔のごとき男に惚れ込んでいるなど、あってはならないことなのだ。


 少なくとも、アスティコスはそう考えていた。



「そ、それで、宰相邸に赴く前夜、え、そ、その、二人は……、と、床を同じくした、と」



「その辺の所は省略しても構わん。酒に関する下りだけでよい」



「あ、はい。それで、翌朝、私が二人のいた部屋に行くと、ヒーサの姿はそこになく、未だに恍惚としたアスプリクと、例の酒が残されていました」



「なるほど。それで、それで例の酒がアスプリクの手に渡り、その流れから宰相への贈呈品としてヒーサが用意した。そう考えたわけだな?」



「はい、その通りです」



 証言を聞き終わると、ヨハネスは再びロドリゲスの方に視線を向けた。


 真贋判定は“真”であり、ロドリゲスは面白くなさそうに無言で頷いた。



「なるほど。では、やはりアスプリクが故意に宰相を暗殺した線は否定されたわけか」



「そもそも、僕はヒーサからの勧めもあったけど、仲直りのためにジェイク兄の所へ行ったんだ。殺すべき理由なんて、“あの時”にはなくなっていたんだ」



「ふむ……。“あの時”ということは、宰相に殺意を抱いていた時期もあった、という事だな?」



「それは否定しない。でも、そうなる理由はあんたらが一番よく知っているだろ!」



 キッとアスプリクが睨み付けた先には、ロドリゲスを始め、法衣に身を包む教団関係者がいた。


 その理由は周知の事実であり、聴衆席にいた貴族の幾人かはさもありなんと何度も頷く有様だ。


 教団関係者の中にも、バツの悪そうに視線を逸らしたり、あるいは顔を見合わせてどうしたものかと悩む姿も見られた。



「僕は、産まれてこの方、まともに愛情を注いでもらったことが無い。誰も彼もが、腫物みたいに扱ってきた。教団に放り込まれてからは、それが悪化した。お前らが僕にした仕打ちは、決して忘れないぞ!」



「アスプリク、その辺にしておけ。今は君の過去について論じるべき場所ではない。今回の王都での騒乱についての、真相究明の場だと言う事を忘れるな」



 ヨハネスとしては、ここでアスプリクに好き放題喋らせて、“かつて”の教団幹部、守旧派に対して掣肘せいちゅうを加えてもらう方が都合が良かった。


 法王選挙コンカラーベにおいても、ロドリゲスがアスプリクに対して行った悪行(実はしてない)の話が功を奏し、それをヒーサとジェイクが反発心や後ろめたさを煽って、“同情票”に結び付けた事が勝利の一因になったほどだ。


 これを利用し、さらにロドリゲス一派を追い込むこともできた。


 しかし、この場は国王、宰相への殺害行為の真実を探る意味合いが強いため、過去の出来事は隅に置いておこうと判断した。


 だが、アスプリクが意外にも食い下がった。



「いいや、違うんだ。その点が今回の、“根”の部分でもあるんだ。だから、聞いてもらわないといけないんだ」



「む……。その“根”の部分とは?」



「僕が『六星派シクスス』と通じていた、と言う事についてだ」



 裁判が始まってから、ついに最大級の爆弾発言が飛び出した。


 この一言が、審理の場をさらに激動の渦に飛び込ませることとなるのであった。

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