12-4 完遂! これで王国は内乱確定だ!

 眼下の城下町は不夜城の賑わいを見せていた。


 なにしろ、年に一度の大祭“星聖祭”の真っ最中であり、一週間通しで行われるのが慣例だ。


 「五つの星の神々は、世界を七日間にて作り上げた」との聖典の記述に則り、それに合わせた七日連続の祭りというわけだ。


 国内各地から巡礼者、あるいは流入する人々を相手とする行商などが入り込み、眠らない街を作り上げた。


 だが、今回ばかりは勝手が違う。


 なにしろ、この祭りの最中に宰相ジェイクが暗殺され、それが人から人へと渡り歩き、噂が噂を呼ぶ結果となった。


 祭りどころではない騒ぎなのだが、法王ヨハネスを中心に必死になってそれを抑え込み、事件の捜査をしながら祭りも例年通りに敢行するという離れ業をやっていた。


 だが、それも今夜までだ。


 まだ祭りは半分が終わろうかと言う段階であるが、もうどうしようもない事が先程、王城で発生した。


 すなわち、国王フェリクの暗殺である。


 国王フェリクが死に、跡取りであった第二王子にして宰相ジェイクも亡くなった。


 もはや誰も止められないほどに争いが争いを呼ぶであろうことは、疑いようもなかった


 そして、まんまと父殺しを成し遂げたアスプリクは、郊外にいある森に着地すると、一仕事終えたとばかりに安堵のため息を吐いた。



「やれやれ。少女に化けるのは慣れておらんから、少し疲れたな」



 そう吐き捨てると、その姿はたちまち漆黒の法衣に身を包んだ男に変わった。


 黒衣の司祭カシン=コジであった。



「さて、これでアスプリクに罪状一つ追加だな。しかも最上位のな。幻術の炎を見せ付け、これでもかと印象付けもしておいたし、ここからが楽しみだ。国王殺し、これで逃げ場がますますなくなったぞ」



 現在、カシンの視点で見た場合、アスプリクは行方不明なのだ。


 恐らくはヒーサかヒサコの所へ駆け込むはず。そうであろうと予測できていた。それゆえの、鬼のいぬ間の洗濯である。


 あちらが干渉できないのをいい事に、ここぞとばかりに更なる悪名を着せ、追加の騒動を狙っての行動であった。


 得意の幻術を用いて王宮に入り、まんまと王の寝所まで辿り着くと、今度はアスプリクに姿を変えて室内に乱入した。


 しかも、サーディクと言う国王殺害現場の証人がいるのを見計らっての犯行である。


 アスプリクへの更なる追及に加え、空席となった王位を巡って最大級の混乱を迎えるのは容易に想像できることだ。


 上手く行けば、そのまま内乱と言う事も考えられた。



「いや、絶対にそうなる。なにしろ、“聖女”ヒサコの腕の中には第一王子アイクの息子がいる。それを王位につけるべく、シガラ公爵の一派が動き出すは必定。一方、国王フェリクの直系男子であるサーディク、これを要するセティ公爵家も動きを活発にするだろう。教団の方も騒ぎを必死に抑え込もうとする新法王ヨハネスに対し、失地回復を狙うロドリゲスの反撃が始まる。ククク……、これで王国内部はバラバラ、内乱一直線だな」



 そうなってくれれば隙だらけの国境を越えて、帝国軍が暴れ回り、ヒーサ・ヒサコを追い詰めていけばいいのだ。


 そうあるべきだし、そのための努力を惜しまなかった。


 そして、それが実りつつあるのが今だ。


 それがわかっているからこそ、自然と笑みがこぼれてくると言うものだ。



「さて、じきにヒーサもヒサコも王都に到着するだろう。だが、その壁の内側は、もはやお前らにとって、敵地に等しい場所なのだぞ。さあ、この危機をどう乗り切る? どうやって白無垢の少女を救ってみせるかな? 存分に拝見させてもらうぞ」



 森の中に、カシンの高笑いが響き、それはまるで王国崩壊の先触れであるかのように、どこまでも不気味に響き渡るのであった。

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