11-31 告白! 黒衣の司祭の役目!

「お迎えに上がりました、“真なる魔王様”」



 跪いて頭を垂れるカシンからの言葉に、アスプリクは耳を疑った。



「僕が、魔王、だって……?」



 あまりに衝撃的な告白に、さすがのアスプリクも呆然となってしまった。


 だが、この話は“初耳”ではない。以前に聞いた話でもあった。



「で、デタラメ言わないで! こんな可愛い子が、魔王なわけないでしょ!?」



 当然、アスティコスが激高した。自分が愛して止まない可愛い姪っ子が、世界を滅ぼすとされる魔王だなとど、絶対にあってはならないのだ。


 だが、その吐いた台詞がまずかった。その言葉もまた、かつてのアスプリクに聞き覚えがった。



「そうだ。ヒーサから、そう言われたんだ。『こんな可愛い娘が魔王なわけがない』と。でも、側にいたテアの視線は違った。僕を魔王と認識している、そういう視線を向けていた」



「え!? そうなの!?」



「理由は知らないけど、あの二人は僕が魔王であることを知っている。少なくとも、魔王になる素質があると認識していると思う」



 アスプリクがヒーサと初めて出会った日の話であり、二人はアスプリクの奥底に眠る本質をすでに看破していた。


 【魔王カウンター】、魔王を探し出すアイテムであり、これで調べられた存在は、奥底に眠る魔王の素質を暴かれてしまうのだ。


 もっとも、たったの三回しか使えないため、使いどころが難しいアイテムではあった。


 だが、ヒーサはこれでアスプリクを調べ、魔王である可能性が高いと目星をつけていた。



「フッ、やはりな。あやつめ、火の大神官が魔王の苗床だと気付いていたか。とんだ食わせ者だな」



「それが何だって言うんだ! 僕は魔王じゃないし、魔王になんかならないぞ!」



「残念な事に、君の意志は関係ない。ああ、いや、違うな。君が進んで魔王になるのだ」



 舐めるように見回すカシンの視線に、アスプリクはこの上ない嫌悪感を覚えた。


 やっぱり炎で吹き飛ばしてやろうか思ったが、そこはアスティコスが制した。下手に術式を使ってしまっては、周囲に人を呼び込むようなものであるからだ。



「解せない点があるわね。もし、うちの可愛い姪っ子が魔王だったとしたらば、あのジルゴ帝国の皇帝は何者なの!?」



「魔王の成り損ない。……あ、いや、半覚醒状態の魔王“もどき”とでも称しておいた方が適当か」



「魔王もどき……!」



 良く似せた偽者、そうとしかとれない答弁に、アスプリクもアスティコスも困惑した。


 そんなに魔王っぽい存在をホイホイ出せるなど、目の前の男はいったいなんなのか、その疑問に尽きないのだ。



「いきなり言われて信じられないだろうが、“この世界”の住人は誰でも、英雄や魔王になれる。ただし、それぞれに適性があって、英雄あるいは魔王の因子を撃ち込み、一定の条件を満たすと覚醒すると思ってくれればいい」



「そんなことができるの!?」



「普通はできない。だが、“神”ならば可能だ」



「なら、カシン、あんたは神様だって言うの!?」



「違う。私も神の被造物。ただ、神から魔王を覚醒させる権限を付与された、特殊な個体だと考えてくれればいい」



 神ではないが、神から権限を委譲されている。その匙加減一つで魔王を作り出せると言うのだ。


 そして、自分が魔王となるべき存在なのだと言われており、アスプリクは背筋に寒いものを感じた。



「神より与えられた権限とそれに付随した力、【転生リーインカネイション】の術式を用い、反英雄アンチヒーローの魂を呼び出し、魔王の器に乗せる。今、帝国の皇帝を名乗っている“足利義輝あしかがよしてる”が、その術式を応用して作り出した魔王もどきだ。半覚醒状態にして、暴れさせているだけだ」



 もはや理解の範疇を超える話であった。


 あまりに突拍子もない話に、事の真贋を見極めるのに二人とも混乱してしまった。



「理解できないのも無理はない。そもそも、物事を測る尺度が、転生者ヒーサと、権限保持者わたしと、世界の住人きみらとで、全然違うのだからな」



「適当ぶっこいて、こちらを混乱させる気かい!?」



「そう思うのは構わんが、まあ、君が魔王になる事は変わらないし、いずれは理解できるだろう」



 不気味に笑うカシンに、アスプリクは底知れぬ恐ろしさと、それによる寒気を呼び起こされた。


 戦って勝てるであろうが、勝ってしまっていいのであろうか、そんな考えすら頭によぎった。



「……カシン、いくつか聞いていいかい?」



「お答えいたしましょう、“魔王様”」



「……仮に僕が魔王なのだとしたら、随分と回りくどい事をしているように思えるのだけど? 魔王に覚醒させる権限があるのだというのなら、さっさと僕を魔王にしてしまえばいいのでは?」



「その懸念はもっとも。ところが、そうしたいのは山々なのだが、世界を作り変えるのには、そう単純ではないのだよ」



 そう言うと、カシンはパチンと指を鳴らした。


 すると、一つの大きな輝く球体と、それを取り囲む六色の球体が現れた。



「まずはこの世界の成り立ちから説明しよう。この世界は言ってしまえば神々の玩具、遊戯盤なのだ。神が用意した英雄と魔王を戦わせ、その勝敗を競う。そういうことを世界規模で行っている」



「それじゃあ、まるで僕らは駒じゃないか!?」



「そう、神にとっては世界の住人きみらなど、遊戯盤の上で自律して動く駒でしかない。そして、呼び出された異世界の英雄すら、せいぜい勝敗に直結する重要な駒でしかない。どっちも神の視点で言えば、動かして楽しむ駒でしかないのだ」



「そんなことって……!」



「まあ、それは神と言う高次元の存在の視点や思考での話。我々のような低次元の存在とは、最初から違うのだよ。文字通りの意味で、次元が違うと言ったところか」



 カシンの説明が続くうちに、アスプリクは強烈な頭痛や吐き気を覚えるようになった。


 アスプリク自身、英雄や魔王についての知識を持っていた。どこで仕入れたか忘れたのだが、“かつて”そう言う事があったということを認識していた。



「ああ、そうか。なら、ヒーサに引っ付いていたテアは!」



「そうだ、いわゆる神と言う存在だ。英雄の側近くにいて、最も身近で戦いを見つめる存在だ。とは言え、神としての力はほぼ封じられ、人間と変わらない程度の力しか持っていないがな。下手に力を持った状態で世界に降臨すると、良からぬ影響を与えてしまうと言うことで、力を抑え込んだ状態で降りてくるのだそうだ。見習いと言えど、神の力は低次元の我々からすれば、間違いなく規格外な存在だ。部品われわれを作り、製品せかいを組み上げる、職人かみなのだからな、あいつらは」



 ここで初めてカシンの表情に変化が生じた。今まではどこか享楽的と言うべきか、何もかもを嘲笑するかのごとき雰囲気であった。


 そのあまりの不気味さに、アスプリクもアスティコスも寒気を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る