悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
11-27 急報! 死せる宰相、生ける法王を走らす!
11-27 急報! 死せる宰相、生ける法王を走らす!
「宰相閣下が亡くなられた!?」
急使からもたらされた報告を聞くなり、法王ヨハネスは天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。
その後ろ盾を失うということは、自身の基盤が崩壊したことを意味する。
ロドリゲスを始めとする反法王派閥の動きが活発化するのは目に見えており、内外に混乱を振り撒くの必定となった。
大慌てで出かける用意をしつつ、使者に話しを続けさせた。
「それと大変申し上げにくい事ではありますが、宰相閣下に毒を盛られたのは、アスプリク様でございます」
「バカな!? アスプリクが閣下を毒殺だと!? 出来の悪い冗談だ! 馬鹿げている!」
なにしろ、つい先日、この場で会食を行い、意志疎通を図ったばかりの相手だ。
そんな素振りは一切なく、王家、聖山、シガラ公爵家の橋渡しとして駆け回っていたのだ。
それが毒殺など、到底信じられるものではなかった。
「それで、アスプリクは!?」
「犯行後、そのまま逃亡し、現在行方不明のままです。あちこち捜索してはいるのですが、未だにその所在は掴めずじまいです」
「ああ……! 当人に事情を聴かねば分からぬというのに!」
故意か、何者かにハメられたか、それすら分からない状況に、苛立ちを拳に込めて机に叩き付けた。
近侍の者達もこれにはビクリと体を震わせた。普段は温厚で理知的な分、怒りをあらわにする姿が、他の誰よりも恐ろしく感じたからだ。
「それで、ヨハネス将軍が聖下に【
「ああ、それは分かっている。こうして着替えているのだからな」
仮眠を取ろうと寝間着を着ているのを、急ぎで略式ながら法王の外行きの服に着替えている最中であった。
ジェイクに復活してもらわねばならない。それを誰よりも痛感しているのが、他でもない、ヨハネス自身であるからだ。
【
焦るヨハネスの視線の先には、ゼンマイ式の置時計が設置されていた。カチカチと正確な間隔で鳴る音を響かせ、時刻は十一時半を指し示していた。
「宰相閣下が亡くなられたのはいつだ?」
「日暮れから少ししてからでしたので、七時前後であったはずです」
「なんだと!? すでに四時間以上経過しているではないか! なぜもっと早く知らせぬ!?」
ヨハネスはまたしても珍しく激高して、使者に詰め寄った。
というのも、ヨハネスの使える【
人は死ぬと、徐々に体が固まってき、ガチガチになってしまう。止まっているとはいえ、生命の残り香である体内の血流を用いて魔力を循環させ、以て体の機能を復活させるのがその術の根幹をなしている事象であった。
ヨハネスは人に宿る魂魄が死後もある程度はその場に留まり、それゆえに体の機能を回復させれば、蘇生することができると考えており、その肉体と魂の剥離こそ、完全なる死であると定義していた。
過去の経験から、六時間以内の蘇生であればほぼ確実。それ以降は時間の経過と共に蘇生できる確率が下がっていき、死後十二時間経過は一度も成功したことがなかった。
それゆえに、時間の経過に焦りがあるのだ。
「も、申し訳ございません! 今は大祭の最中で、聖山も夜間拝観が認められており、王都と聖山を結ぶ街道が大渋滞を起こしておりまして、思いの外に時間がかかってしまいました!」
「んん~! なんたる事か!」
ヨハネス自身、焦っていてその件がすっぽり抜け落ちていた。
普段の道路状況であるならば、早馬を飛ばせば、王都から聖山までは二時間程度の行程で済むはずだ。
だが、今は夜間拝観のための参拝者が街道にひしめき合っている。それをかき分けながら馬で進むとなると、時間がかかるのは道理であった。
もし、普段の状況での暗殺であれば、蘇生確実な六時間は間に合ったであろう。
ふと視線を向けた眼下の街道の明かりが、ヨハネスには忌々しく思えた。信心深い信者には申し訳なく思いつつも、今ジェイクを損なう事態となれば下手をすると内乱にまで発展しかねない危うさがあった。
さっさとそこをどけ、と口にこそ出さなかったが、苛立ちを隠さぬ視線を照明で照らされた街道を睨み付けた。
「……馬車の往来は、無理、だな」
「交通整理をしながらとなりますので、余計に時間がかかるかと。裏道を遠回りで進んだ方が早いかもしれません」
「仕方ない……。馬に乗っていく」
これまたとんでもない発言が飛び出した。
教団の最高峰に位置する法王が、馬に跨って人を押しのけながら街道を行くと言ったのだ。
人目を引き過ぎるし、色々と憶測が飛びかねない危うさがあった。
だが、馬車では時間がかかり過ぎるのは目に見えており、少しでも蘇生の確率を上げるためには仕方がないと判断したのだ。
「法王に似つかわしくない外套を用意しろ! 地味な装いで行く!」
最早、体面などどうでもよかった。とにかく時間が惜しい。
ヨハネスは邪魔になるからと、供廻りすら不要だと言い放ち、放たれた矢のごとく、凄まじい勢いで部屋を飛び出して廊下を駆けて行った。
すでに肉体は全盛期を過ぎており、かつての前線でのような体の動きはできない。だが、体内に宿る魔力の方はむしろ円熟期を迎えているとすら言えた。
術式で身体能力を向上させ、若かりし日よりもいい動きができていた。
なお、聖山の中では術式は使用禁止だが、そんな体面などはすでに捨て去っていた。
なにしろ、ジェイクの復活ができるかどうかで、今後の国内情勢も、自身の身の振り方も、大きく変わって来るのだ。
(ああ、【
ヨハネスは治癒系の術式においては国内最高、補助の術式も中々のものを誇っているが、それ以外はそこまでの腕前は持ち合わせていなかった。
それを補って余りあるだけの治癒の使い手であったため、何かと重宝されてきたが、ここへ来て使用できる術に幅を持たせておくべきであったと後悔した。
前線ではひたすら傷病兵を治療し、高位の神職になってからは身の安全のための探知系術式を習得してきたため、攻撃はからっきしであるし、強化系も自身にかける程度のものだ。
(とはいえ、魔力の消耗は控えよう。このまま強化した足で駆け抜けても、王都に着く頃には魔力は空っぽだ。【
風のごとく駆け抜け、奥の院を飛び出し、人のいない裏参道を駆け下りて、麓の裏口に到着した。
さすがに、法王がいきなり現れたことに、衛兵達は度肝を抜かれたが、横の厩舎から馬を引っ張り出して、そのまま駆けていったことに更に驚いた。
いったい何が起こっているのか。それの真相を知る者はまだ少ない。
だが、それが収まるかどうかは、ヨハネスがいかに王都に手早く辿り着けるのか、それにかかっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます