悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
11-18 和解成立! そして、兄と妹は握手を交わす!
11-18 和解成立! そして、兄と妹は握手を交わす!
そのアスプリクにとっての最高の贈り物であるアスティコスに、ジェイクの視線が注がれた。
「それにしても、そちらのエルフはアスペトラ殿によく似ているな。さすがは姉妹、といったところか」
ジェイクは父の話は切り上げ、今度はアスティコスに話題を振った。
まさか姉の話が出てくるとは思わず、アスティコスは目を丸くして驚いた。
「姉さんをご存じで?」
「ああ。王宮で何度か見かけたし、実に美しい女性であった。秀でた薬師であったと記憶している」
「そうなんですよ! 姉さんは薬師としてはまさに天才で、
久しく聞いていなかった姉の話が聞け、アスティコスはいたく上機嫌になった。
将射んとすればまず馬より射よ。周囲の雰囲気を良くし、その上でアスプリクとの和やかな雰囲気にしようというジェイクの策であった。
「あ~、そう言えば、母の旅日記に、そんなことが書いてあったような。まあ、僕は薬師じゃないから、薬云々はちんぷんかんぷんだったけど」
「ふふ、今度教えてあげようか? 姉さん程じゃないけど、私の腕前も中々だと自負しているわ」
「そう? なら、今度教えてもらうことにするよ」
二人は笑みを交わし、場の雰囲気はすっかり良くなった。
策が成った事を確信し、ジェイクもまた上機嫌になった。
「そういえば……、姉さんが王宮に出入りした理由や発端はご存じでしょうか?」
「ああ、それも覚えているよ。まあ、あの件は完全に父上のやらかしではあるがな」
話すのが少し
「父上は真面目と言うか堅物でな。生まれてこの方、母上以外には女っ気のない生活をしてきた。だが、母上が亡くなられた際に寂しさを紛らわすためか、今まで鳴りを潜めていた情欲が目覚めたのか、途端に女漁りをするようになってな」
「男って……」
「弁解の余地なしだな。で、その際に精力剤ということで、怪しげなキノコや正体の分からぬ卵やら色々な物を召し上がられてな。それのどれかがあたったのか、倒れられて生死の境をさまよったのだ」
「自業自得ですね」
「いやはや、まさにその通り」
言い訳のできない情けない状況であり、アスティコスのつっこみをジェイクは甘受せざるを得なかった。
「ヨハネスがいれば治せたかもしれんが、折り悪く前線に傷病兵の治癒に出掛けて不在で、他の術士や薬師では治せなかったのだ。だが、そんなときに王宮に顔を出したのが、アスペトラ殿だ。父の容体を見るなり直ちにそれに合わせた
「う~ん、さすが姉さん」
「で、目が覚めた父が最初に見たのが、看病をしていたアスペトラ殿で、『天女が来た』とか言って首ったけになった、というのが二人の馴れ初めだ」
「で、子供を仕込むまでの仲になったと」
「かなり強引に王宮に留めてしまった点は否めないがな。まあ、なんやかんやで恋仲とも友情とも言い難い、微妙な関係が続いたが、気付いたら孕んでいたってところだな。私としては、父上の女遊びがなくなったので、まあよかったかなと思ったくらいだ」
誰も話してくれなかった母の話に、アスプリクも真剣に聞き入った。
エルフが人間の王城に留まるなど余程の理由かと思っていたら、まさか女遊びのツケ払いが原因だったとは思ってもみなかったので、怒っていいのか泣いた方がいいのか、とにかく微妙な感覚に襲われた。
「そんな関係だったからこそ、出産時に僕の炎が、母を焼き殺してしまったことを恐怖したのか」
「ああ。焼け焦げたアスペトラ殿の遺体を見た時には、相当衝撃的だったらしく、数日寝込まれたからな。あれ以来、体調が微妙な日がちょくちょく出るようになった。まあ、凄腕の薬師と愛妾を同時に失ったわけだしな」
「結局、そこも僕のせいじゃないか……」
「お前を責めることはできんよ。自我を持たない赤ん坊を、母殺しで糾弾するわけにもいかんしな。むしろ、その場にいて即座に炎を鎮めれなかった、立会人の神官らにこそ責任はある」
貴人の出産には母子ともに安全であるよう、万が一に備えて術が使える神官が立会人になる場合がある。このときもそうであった。
だが、生まれたばかりのアスプリクの魔力が桁外れであったため、抑え込むのに時間がかかり、結果としてアスペトラを損なう結果となった。
これは立会人として、大きな失態と言えた。
「アスプリク、お前が気に病むことではない。お前に起きたことは、お前自身の責任よりも、お前を利用しようとしたり、あるいはちゃんと面倒を見てこなかった大人達が悪い。そして、私自身もそちら側に含まれる。為政者としてではなく、一人の兄として、お前を向き合ってやれなかった」
そして、ジェイクは妹に向かって頭を下げた。
非公式の場とは言え、宰相たる者が頭を垂れて謝罪する意味を分からないアスプリクではない。
「アスプリク、本当にすまなかった。教団内部でお前の受けた仕打ちは、決して許される事ではない。教団と事を構えてでも、私は連れ戻すべきだった。だが、妹の気持ちや境遇よりも、“城内平和”を優先し、黙認を決め込んでしまった。お前が怒るのも無理はない。黙認を決め込んだ私もまた、あの下衆共と同罪だ。今更何をと思うであろうが、あの件は己の臆病を恥じ入る次第だ。お前が受けた屈辱は何倍にもして償っていく。だから、どうか私を許してくれ。そして、これから本当の意味で、兄と妹の関係を築いていきたい」
邪念が一切ない真っ直ぐな瞳をジェイクはアスプリクに向け、手を差し出してきた。
この手を掴めば、全てが変わる。かつての自分であれば、容赦なく叩き落として喚き散らしていたであろうことは間違いない。
(でも、今は違う。今の僕には、勇気を与えてくれる
アスプリクはふと横を振り向くと、アスティコスが笑顔を向けてきた。この笑顔こそ勇気を与えてくれ、背中を押してくれるのだと実感できた。
もう恐れるべき何ものもない。
意を決して、少女は差し出された兄の手を掴んだ。
何年も続いた険悪な関係も、これにて清算と相成った。
これで変わる。変われる。兄妹として、互いにちゃんと向き合えるその瞬間がやって来た。
両者ともにしっかりと手を握り、何度も何度もそれを振って、確実に変わったと言う事を実感し合うのであった。
それを見守る
かくして、長らく続いた兄弟喧嘩もこれにて終わりを告げることとなり、新たな関係に構築に動き始めるのであった。
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