悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
9-14 許すまじ! 悪役令嬢、夫の復讐を誓う!
9-14 許すまじ! 悪役令嬢、夫の復讐を誓う!
帝国領某所にて、会議の席が設けられていた。
「えっと、忙しいのに来てもらってごめんね。ちょっと急を要する事態なのよ」
ジルゴ帝国の領域に逆侵攻をかけたヒサコであったが、ここへ来て情勢の大きな変化に見舞われ、急いで諸将に招集をかけたのだ。
最前線に張っているコルネス将軍はさすがに呼び戻せなかったが、本営近くに布陣していたサーム、アルベールの両将軍は参集に応じ、ヒサコの所へ駆けつけていた。
「まず、非常に残念な事に、夫が暗殺されました。『
ヒサコは怒気を強め、机に拳を勢いよく振り下ろした。
雷でも落ちたのかと思うほどの轟音と怒声が響き、サームとアルベールは思わず肩をびくつかせたほどだ。
そして、その飛び出した言葉の内容の深刻さも、同時に理解した。
目の前の女性は普段は気丈に振る舞っているが、まだ二十歳にも満たないうら若き女性なのである。
その若い身寄りで、新婚生活も戦争によって打ち砕かれ、しかもその機会が永遠に失われてしまったことも定められてしまった。
運命とは、かくも過酷な試練を与えるのかと、神を呪いたくもなった。
その怒りも理解できるし、冷静にならねばと、二人ともすぐに硬直した思考を元に戻した。
「それで、ヒサコ様、どういたしましょうか? ただちに撤退いたしますか?」
この提案はサームよりなされた。
名義だけとはいえ、後方に控えていた総大将がいきなり暗殺されたのである。将兵や、あるいはアーソの住人を慰撫するためにも、ひとまずは辺境伯領に撤収するのが常道と言えた。
なにより、夫を失った妻の想いを慮っての事でもあった。
だが、ヒサコはどこまでも常軌を逸する思考をしていた。
「撤退など論外です。構わず戦争を続けます」
「え、あ、はい、ですが」
「気を遣ってもらわなくて結構よ、サーム。私は怒ってはいますが、冷静です。今すぐにでもあいつらを血の海に沈めようと考えるくらいには理知的です」
サームにはヒサコがとても冷静であるとは思えなかった。
名目上とは言え、総大将が死亡。私人の視点であれば、夫が暗殺。これで冷静でいろと言う方が無理であった。
やはり撤退すべきと考え、サームは今一度それを促そうとした。
だが、そのすぐ横に真逆を行く者がいた。
「その通りです! ここで下がっては、却って混乱します! 予定通り前進して敵拠点を叩き、その噴き上がる炎を以て
ますます血気盛んなアルベールは前進を訴えた。
アルベールにしろ、アーソ出身の将兵は全員が血に飢えていた。他でもない、かつての報復に燃えているのだ。
亜人狩りを最も熱心に行っているのが彼らであり、今なお燃え盛って衰えを見せない。
かつて、自分達の家や土地を焼かれた経験があるため、それをやり返しているだけなのだ。
また、失権した領主一家の返り咲きもまだ考えている者もおり、その一助にならんと武功を求める者もいた。
つまり、それらすべてを複合すると、アーソの人間に言わせれば、大戦果を挙げての凱旋以外は有り得ないのだ。
「待て待て、アルベール殿。逸る気持ちは分かるが、アイク殿下が亡くなられて、色々と問題が生じるのだぞ。前線はヒサコ様が指揮を執り、我らもそれを御支えしているゆえ良いが、問題は領地の方だ。アイク殿下と言う旗印を失い、領民が動揺する。それを捨て置くと言うのか!?」
「サーム殿、アーソの民はそんなヤワではありません。むしろ、武功を挙げずに帰って来たと知れば、それこそ文句が出かねません。戦果! 戦果! 大戦果! それこそ、アーソの民が求めるものなのです! せめて手近の宿営地くらい焼き払わねば、前に出ている我らの名誉に関わります!」
慎重かつ手堅いサームに対し、血気盛んで武功を求めるアルベール。
冷静に比較すればサームを推すのがまともな人間のすることだろうが、ヒサコはどこまでもまともではなかった。
むしろ、前に出たい気持ちが強いため、アルベールの意見をこそ、飛び出すのを待っていたのだ。
「もちろんですとも、アルベール殿。漁の成果もなく、船が手ぶらで港に戻れるわけがありません」
「まさに! あと一万は首級を挙げねば、父の墓前に供える花がございません!」
アルベールは目をぎらつかせながら、ヒサコの意見に賛同した。
自らの武功もそうであるが、それを以て旧主の復権や妹ルルの好待遇を勝ち取らねばならないため、中途半端な撤退など、受け入れられなかった。
やるからには大戦果、これがアルベールを含めたアーソ出身の将兵の願いなのだ。
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