7-67 迎撃! 怒れる里長は宙を舞う!
エルフの里の被害は考えていた以上にひどい有様であった。
聖域での“茶番”を放棄し、煙が立ち込める里に急いで戻ってみれば、そこは地獄のような光景が広がっていた。
なだれ込んできた
「おのれ! ただでは済まさんぞ!」
プロトスは怒りに満たされた。ここまで憤ったことなど久しくなく、手練れ揃いの周囲のエルフ達も怯えるほどであった。
その体よりあふれ出る魔力は大地を震わせ、突風となって吹き荒れた。
「森は水と土によって育まれ、風によってそよぎ、広がっていく。だが、火はその百年の営みを一瞬で消し去ってしまう。ああ、我が心の業火を、いかに消すべきか!」
プロトスは普段見せない憤激を吐き出し、感情をあらわにした。
だが、それでも冷静さは、長としての責務は決して忘れてはいなかった。素早く周囲を見て状況を判断し、風の精霊を呼び出して自らの体を宙に浮かせた。
「お前達は地上の敵を掃討しろ。私は上を片付ける。風よ!」
プロトスは風の精霊に命じ、自らにまとわせると、噴き上げる風の力を推進力に変え、放たれた矢のごとく上へと飛んでいった。
プロトスは飛びあがりながら里の状況把握に努めたが、襲撃側が極めて有効な戦術を取っていることがすぐに分かった。
エルフの里は森の巨木群を利用して、施設が建てられている。木々の
その気になれば、地面に降りることなく里の中をどこまでも移動できるほどだ。
仮に襲撃を受けた場合、地上からの登り口は限定されるため、即座に封鎖して防御を固めることができ、高所の利を活かした戦い方ができるようになっていた。
だが、今回はそれが活かせていない。と言うより、構造上の弱点を突く編成になっていた。
(地上を走る
プロトスが思うに、敵の編成があまりに里への攻撃に適した編成なのだ。
その
結果、あちこちが炎上し、煙が上へと昇っているのだが、これが煙幕の役割を果たし、上からの攻撃の妨げになっていた。
そして、炎の熱や煙に巻かれ、後退しようとすると、そこに
(間違いない!
本能のままに襲ってくる妖魔や
そして、その犯人は間違いなくヒサコであると認識していた。
(ああ、そうだ。あいつは里の中でしばらく逗留していた。無論、牢の中でじっとしていたが、それでも内部の構造を目で見ている。里の攻撃に適した編成をすることくらい、訳ないだろう。しかも、
だが、そう結論付けると、不可解な点もある。どうやって
【
(だいたい、あの手の術式は視認している範囲で用いるのがせいぜい。使い魔などを遠隔操作するにしても、数体が限度のはず。このような軍勢規模を、広範囲で操作するなどまずできないはずだ)
プロトスの考えはいまいち煮詰まらないが、ともかく里の住人の救援が最優先であった。
地上の敵性勢力は戦士団が処理するであろうし、自分は我が物顔で飛び交う
「風よ! 収束せよ! 【
プロトスが風を圧縮した砲弾を放ち、飛竜の片翼をへし折った。
本来なら相手を吹き飛ばす程度の威力しかないのだが、プロトスほどの腕前が全力で風を収束させると、命中時の衝撃で中身をグチャグチャにしてしまえるほどの威力を生み出せるのだ。
片翼をへし折られ、飛行能力を失った
そこへ、間髪入れずにプロトスに向かって、次の
宙を舞うエルフを食らわんと、大口を開けて飛び掛かって来たのだ。
「舞え、光の精霊よ。【
力ある言葉とともに光弾が飛び交い、
視界が突如として真っ白になった
立て続けに二体の
「皆、大事ないか!?」
「おお、長! ありがとうございます!」
怯えつつも助かった安堵感から涙を流し、プロトスに感謝する里のエルフ達であった。
プロトスは負傷も術式で癒やし、その手で北側を指さした。
「里の北側へ向かえ。あちらまではまだ火の手が回っておらんし、橋や道も残されている。急げ!」
「は、はい!」
エルフ達は促されるままにそちらへ駆け出し、プロトスはそれを見送りつつ、眼下に視線を向けた。
地上では、先程率いて戻ってきた戦士団が
囮役の戦士が俊敏さを活かして引っ掻き回し、誘い込んだところを術士が足止めして動きを封じ、そこを剣や弓矢で仕留めていった。
また、水の精霊を呼び出して消火作業にも当たっており、この調子ならば鎮火も時間の問題であった。
「よし、このままなら全部駆除するまで持ちこたえられるな」
地上は順調に押し返し、飛び回る
聖地に群がっていた妖魔の群れも、まだ大結界【
敵襲の撃退と消火活動はどちらも上手く生きそうであり、プロトスはようやく一息付けた。
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