6-51 投了か!? 暴露されし裏事情!
露骨に怪しい者がいるのに調べられない。
【魔王カウンター】の無駄撃ちがここへ来て響いてきた。
「まあ、アスプリクもマークも魔王候補であったが、目の前のこやつの方がそれっぽいわな。あぁ~、せめてあと一回分でいいから、使用回数残ってたらな~」
これみよがしにテアをいじるヒーサであったが、テアは言い返し難かった。無駄撃ちしてしまったのは事実であるし、その点では弁明のしようもなかった。
「なにより、だ。もう魔王は復活しているし、今更ジタバタしても始まるまい」
「……は?」
今日一番の爆弾発言であった。
テアは目を丸くして驚き、ヒーサを見つめた。
「ちょっと待って! いつ魔王が復活したって言うのよ!?」
「それは知らん。だが、魔王が復活したという“手応え”は感じた」
その発言は不可解であった。魔王が復活しているというのであれば、その波動を多少なりとも感じ取れるであろうし、あるいは候補を二人まで絞っている以上、仲間からの連絡があってもおかしくはない。
だが、連絡も何もないのだ。
ヒーサには感じれて、自分には感じない何かがあったのか、テアはダラダラと汗を流し始めた。
(ちょっと待って。それはまずい。人間に感じれて、神である私には感じれなかったって、要は私は無能ってことじゃない。ああ、それはダメ! 落第モンよ、それは!)
無論、相棒との連携ができていれば、話は別である。
英雄を操作し、魔王を倒すのが試験である以上、英雄に任せねばならない点は多々ある。しかし、その相棒が魔王復活という最大級の必要情報を伏せていたということは、連携が全然できていないことを意味し、英雄の後援者たる神としては失格以外のなにものでもないのだ。
「おや、お気付きでしたか。さすがは英雄。そこの無能な従者とは違いますな」
「残念だが、私は梟雄であって、英雄ではないぞ。それに、こいつは馬鹿で間抜けで、どうしようもないドジだが、それはそれで愛でようと思うものだ」
「いやはや、あなたも意外と大甘なようで。あなたとは気が合いそうで、合わなさそうだ」
そう言いつつも、黒衣の司祭はヒーサに歩み寄り、手を差し出してきた。
ヒーサは意を察して自分を手を差し出し、二人は握手を交わした。
「ちょっと! なぁに、握手なんて交わしてんのよ!?」
「前にも言ったではないか。『利害は同盟の潤滑油であり、裏切りの導火線』だとな」
「その言葉を借りるのであれば、私とヒーサ殿は現状“前者”に該当しますからな」
テアにとってはあまりに衝撃過ぎた。よりにもよって転生させた英雄が、魔王側と同盟を交わす発言を匂わせてきたからだ。
“落第”どころか“強化合宿”行きの特急券を渡された気分であった。
「ヒーサ! なんで魔王側と握手できんのよ!?」
「どう足掻いても、すでに現状、勝ち目がないからだ」
「勝ち目がない、ですって!?」
「ああ。お前の言うところの他三組の英雄が、すでにこの世界にはいないのだからな」
「……え?」
今度という今度こそ、テアの頭が凍り付いた。
四人の英雄を転生させ、各々の見習い神がそれを導き、魔王を打ち倒してその過程を評価する。これがこの世界における神と英雄の関係であり、ルールだ。
そのため、テアニン&松永久秀の組以外にも、他三組がこの世界に来ているはずなのだ。
その他の三組はすでにいない。そうヒーサは言い切った。
そうなると、ヒーサの言うように勝ち目はないのだ。なにしろ、他三組は戦闘要員であり、ヒーサとテアの組は斥候として情報収集に当たっているからだ。
戦闘キャラと斥候キャラとでは、担う仕事や能力に差があるのは当然であり、斥候が戦闘要員に戦闘で勝つのはまず不可能だ。
「魔王が復活し、戦闘要員の他三組がこちらに連絡を寄こす間もなく瞬殺された。こう考えると、どう足掻いても勝ち目はあるまい?」
「いや、まあ、そりゃそうだけど」
「あるいは、危機感からこの世界を逃げ出したとも言えなくもないが、どのみちこの世界にはいない事には変わりあるまい」
実際、ヒーサの指摘はテアも前々から危惧していたことであった。
転生してこの世界に降り立つ際には別々の場所に出現するが、情報系の術式によってある程度の連絡は取れるようにはなっていた。
しかし、魔王側に属する“お邪魔キャラ”の存在も考慮にいれなければならないため、余程重要な情報が出ない限りは情報封鎖しておくのがセオリーとなっていた。
(そう。だからこそ、アスプリクやマークを【魔王カウンター】で調べた際、これを通信術式で情報を送った。でも、返信もなければ、使い魔やなんかでの渡りもなかった。ここから導き出される理由は二つ。何かしらの理由で情報封鎖を継続したか、あるいは“もういない”かのどちらか)
前者であった場合は不可解すぎる。なにしろ、目の前に魔王の手掛かりが転がっているというのに、黒衣の司祭の捕縛を行う素振りを見せないからだ。
アスプリクの情報はすでに送っているので、間違いなく要監視対象であり、最低でも戦闘要員の内の一人が張り付いていないとおかしい。
だが、動く素振りがないということは、もういないと判断するのが妥当とも言えた。
では、なぜいないのか。ヒーサの言う通り、こちらに情報を送り出す間もなく、三組揃って消された可能性が濃厚となってくる。
(嘘でしょ、そんな……。そんな強烈な魔王が今回のターゲットだって言うのなら、斥候要員の私やヒーサじゃ、どう足掻いても勝ち目がない)
なにしろ、ヒーサは情報収集のための擬態性能に特化したスキル編成を行っていた。闇討ちは得意でも、こうして姿を晒した状態ではどうにも苦しい。
使える戦力としては、アスプリクと
当然、得意の毒で魔王を倒しきるのも不可能。
(詰んだ……。どう考えても詰んだ! うわ、落第確定だわ、こりゃ)
テアは眩暈を覚え、体が崩れ、どうにか机を支えにして立っているのがやっとであった。
だが、そんな相棒の無様な姿など知った風ではなく、ヒーサは悠然と構え、そして、なおニヤリと笑うのであった。
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