6-36 開幕! 主演・松永久秀のヒーローショー! (11)

 ブルザー率いるセティ公爵軍を散々引っ掻き回してボロボロにした後、ヒーサ、テア、アスプリクの三名は再び街道を馬で駆けていた。


 セティ公爵軍の被害は甚大であった。


 なにしろ、黒犬つくもんは執拗に兵士に嚙みついたり、あるいは体当たりで吹き飛ばしたりと、次々と死傷者を量産してきた。



 おまけに、火薬を満載した荷馬車を二台も炎上、爆発させてしまい、大砲や鉄砲の運用に支障を来たすほど、人員も物資も損なわれてしまった。


 そして、その結果に満足したヒーサはその場の公演・・を打ち切り、次へと移動を開始した。


 次なる目標は、王国宰相ジェイクのいる部隊だ。中央の大道を進んでいるはずだが、進軍速度が思ったよりも芳しくなかった。それだけ慎重に進んでいると言う事なのだろうが、その分他の部隊との合流は遅れており、ヒーサとしては都合が良かった。



「それにしても傑作だったな! あのブルザーのしかめっ面よ! 言いたいことは山ほどありそうだったが、何も言い返せない苦しい立場に追いやられた! クハハハ、言いたいことも言えない、そんな雰囲気が出ていたな! あぁ~、愉快愉快!」



 予定していた戦果を稼げたので、ヒーサはいたって上機嫌であった。


 まずは何と言っても、セティ公爵軍に痛手を与えたことだ。シガラ公爵軍とセティ公爵軍がまともにぶつかった場合、勝つのは間違いなくセティ公爵軍だとヒーサは見ていた。


 新型の燧発銃フリントロックガンを揃えたと言えど、純粋に数の多さやシガラ側にはない砲兵部隊の存在が厄介であった。



 それを潰し、その敵意をすべて黒犬つくもんが引き受けてくれるというのだ。これほど愉快な出来事と言うのも中々なかった。


 そして、何と言ってもヒーサにとっての最大の収穫は、ブルザーの言質であった。


 ブルザーは言った。現役の司祭の不祥事であるので、教団側の監督責任である、と。


 今回、リーベが異端宗派たる『六星派シクスス』に鞍替えしたという大失態があるため、その責任を誰がとるかでもめるのは確実であった。


 そんな中で、ブルザーはそれを「教団側にある」としっかり発言してしまった。


 おそらく、教団側はセティ公爵家の罪について言及してくるだろう。自分達の責任逃れをしようとすれば、それしか手がないからだ。



「ククク……。もう笑いが止まらんわ。これで責任の擦り付け合いで、揉めに揉めることが確定したようなものだからな」



 直接的な損害を与えつつ、こちらを追い落とすために手を結んだというのに、早くも仲違えと言うわけだ。ヒーサとしては、まず満足する結果となった。



「それにしても、アスプリク、お前の演技も見事だったぞ。どでかい爆発で、さぞ肝が冷えたことだろう。いい気味だ!」



「いやぁ~、ヒーサの誘導リードが良かったのよ。逃げ回っているように見えて、あいつらにもちゃんと攻撃してやれたしさ。最後の爆発だって、わざわざ荷馬車の横で陣取って、こっちの攻撃誘ってたじゃない」



「ああ。火が着けば大爆発で、そのまま吹っ飛ばされてオサラバできる状況にもなったからな」



 馬を並走させ、二人は器用に拳と拳をぶつけて、息の合った連携をここでも見せ付けた。


 相手をハメている時の二人は、実に楽しそうであるし、息もピッタリだ。出会うタイミングさえ早ければ、あるいは本当に引っ付いていたかもとテアは思った。



「で、これからどうするの? もう“ヒーローショー”もネタが尽きたんじゃない?」



 テアとしてはとっととこんな茶番劇ヒーローショーを終わりにして、平穏な日々に戻って欲しいと願っていた。


 そもそも、魔王探索が主目的だというのに、よりにもよって魔王候補筆頭アスプリと仲良しこよしのお遊戯会である。さっさと正体表せよ、というのがテアの本音だ。



(まあ、あくまで候補だからね。マークの可能性もあるし、あるいは他に潜んでいる可能性も捨てきれない。ええい、面倒ね)



 テアの目的はあくまでも魔王の探索であり、そのための情報収集に他ならない。


 やり方は共犯者あいぼうに一任すると約した以上、それに沿って行動しているだけだ。



(そう、この男は無茶苦茶やっているように見えて、裏でキッチリ建てたフラグを回収しているのが怖いのよね。【魔王カウンター】で調べたアスプリクもマークも、どっちも高い数値を叩き出してる。そして、こいつは『アスプリクは魔王じゃない』と言い切っているのが気になる)



 今目の前で魔王候補と和気あいあいとしていられるのも、本当にそうだと信じ切っているか、あるいは逆に魔王をハメるつもりで油断を誘っているのか、そのいずれかだと考えていた。


 どのみち、何かしらの確証がないと動き辛いのも事実であり、結局、ヒーサが用意した道筋を辿り、現段階では“見”に徹するよりないというのがテアの結論であった。


 英雄と聖女となるか、あるいは梟雄と魔王となるか、目の前の二人についてはまだまだ未知数な部分が多かった。

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