4-18 被害甚大!? 殉職した職人達!
窯場は静かなものであった。先程まで阿鼻叫喚の地獄が形成され、巨大な
だが、散らばった道具類が嘘ではなく現実の出来事であることを知らせ、また、飛び散って建物の壁にこびり付く血肉が嫌でも凄惨な光景を見せ付けてきた。
「ひどい有様ですね」
ヒサコは乗っている
「まあ、窯自体に損害がないとはいえ、職人の方に被害が出たのは痛いな。丁重に葬ってやらねば」
同じく馬に乗っていたアイクも、テアとヨナに助けられながら馬を下り、手を合わせ、亡くなった者達に祈りを捧げた。
ヒサコもそれに習い、アイクの横に立って冥福を祈った。
「おお、王子! 無事でしたか!」
祈りを捧げていると物陰から誰かが声をかけてきたのでそちらを振り向くと、そこにはドワーフの技術者デルフがいた。デルフは樽を思わせる体を動かして必死に駆け寄り、王子の無事を喜んだ。
「おお、デルフか! よく無事であったな!」
「いやぁ、ワシはこの通り足が遅くてな。逃げるよりも隠れた方が良いと思って、物陰に潜んでおったのです。銃声に惹かれて黒犬が去ってくれたおかげで助かりましたわい」
「そうであったか。まあ、無事でよかった。おぬしがおれば、またやり直せる」
なにしろ、折角隣国から呼び寄せたドワーフの技師である。焼物だけでなく、色々と学び取らねばならないことは多いのだ。職人の損失は痛いが、その大元たるドワーフの技師がいなくなっては、何もかもが終わってしまう。
最悪の事態だけは回避できたと、アイクは胸を撫でおろした。
「さっきの銃声、お嬢さん方の仕事じゃな。助かったぞ」
「いえいえ。こちらも突然の事態に必死でしたから。御無事で何よりです」
ヒサコがにこやかな笑みと共に手を差し出すと、デルフは少し恐縮しながらもその手を握り、しっかりと握手を交わした。
ヒサコとしても、ドワーフ技師が生き残っていてくれたのは幸いであった。アイクがそうしたように、いずれはドワーフの招致も考えているため、伝手が失われなくてよかったと心底安心したのだ。
「窯は無事じゃった。火も何とかなると思う。だが、何人か死んでしまったのが残念でならん」
デルフにとっては、ここの職人は一人の漏れなく自分の教え子であった。当初は積まれた報酬のみに興味があって出向いてきたのだが、次第に真剣な人間達の態度に打ち解け合い、酒を飲んでは語らう日々を楽しく思うようになっていた。
だが、そんな見知った顔ぶれが幾人も帰らぬ人となり、言い表しようのない虚しさがデルフに襲い掛かっていた。
そんな気落ちするデルフに対し、ヒサコはそっと肩に手を置いた。
「デルフ殿、こう言ってはなんでしょうが、割れた器を嘆くより、次に作る器のことに頭を悩ませましょう。あなたが立ち止まっていては、他の教え子が困ってしまいますわ」
笑顔で答えるヒサコに対し、デルフは心打たれた。指摘された通り、教え子達が全滅したわけではないのであるし、教える側が不貞腐れているわけにはいかないのだ。
それを気付かせてくれたヒサコに、デルフは笑って応じた。
「強い、強いのう、お嬢ちゃんは」
「強いと思ったことはございませんが、弱いとも思っておりませんわ」
「十分強いよ、お嬢ちゃんは。まるで、歴戦の勇者のごとき立ち振る舞いだわい」
気を持ち直したデルフは、側に散らばるガラクタの山をかき分け、そこから何かを取り出した。ヒサコはそれを凝視すると、見知った品であった。
それは巨大な巻貝。かつての世界でよく使った品だ。
「あ、それって、もしかして法螺貝?」
「おお、そうじゃとも。なかなかよい音を出すでな」
そう言うと、デルフは大きく息を吸い込み、そして、法螺貝に息を吹き込んだ。
ブオォォォォォォォォ! ブオォォォォォォォォ!
けたたましい音が窯場どころか谷間に反響し、村全体に音を届けた。
あまりに至近で大きな音がしたため、その場の面々は思わず耳を塞いでしまったが、ヒサコだけはなぜか懐かしむかのように恍惚とした表情を浮かべていた。
(あぁ~、この音色、たまらん! こう、合戦が始まるっていう高揚感が湧いてくる!)
かつての世界で慣れ親しんだ法螺貝の音色に、在りし日の合戦風景を思い浮かべた。何度となく聞き、あるいは聞かされた音だ。懐かしくもあり、忌々しくもある、合戦の合図となる叫びであった。
とはいえ、あまり表情に出すと奇異の目で見られるため、思い出は隅の方へと追いやった。
「今のは?」
「招集の合図じゃよ。これで散らばって逃げた連中も、騒動が片付いたと戻ってこよう」
少し経つと、一人、また一人と散らばって逃げた職人達が窯場に戻ってきた。恐る恐るではあるが姿を現し、
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