悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
3-35 秘書官任命!? 就学者を遊ばせておくつもりはない!
3-35 秘書官任命!? 就学者を遊ばせておくつもりはない!
カウラ伯爵家側によるヒーサの寝室の探索は不首尾に終わった。
それどころか、完全に失敗であった。なにしろ、ヒーサが用意した“自作の
真面目人間ほど、身を崩した際の破綻度合いが大きいと聞いていたが、まさかそれに
完全にヒーサへの警戒が解かれたというわけではないが、家探しの前と後とでは、二人のヒーサへの態度が露骨なほどに変わってしまっていた。
そして、ここでヒーサの更なる一手が打たれた。
「今日からティースには、私の秘書官になってもらう」
これが三人組の度肝を抜いた。
秘書官とは、事務仕事の補佐役である。つまり、ティースに公爵領の行政に携わらせると宣言したに等しいのだ。
まだ公爵領に移り住んで日が浅いと言うのに、いきなりの抜擢である。これにはさすがのティースも少しばかり焦った。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「よろしいも何も、読み書き計算ができるなら十分だ」
貴族と言えど、読み書き計算ができるとは限らない。特に下級の貴族はひどい有様で、領地経営などよりも武芸に打ち込んで、騎士として名を馳せるなどと考える輩も多く、そうした者ほど学問に対して軽んじた態度を取ってしまうのだ。
このため現在、カンバー王国における識字率は五割程度に留まっている。しかも、この五割という数字は“貴族”の数字であって、庶民となると大幅に落ちる。
自分の名前すら書けない、計算も足し算引き算ができればいい方、という有様がまかり通っている。読書や高度な計算を使える者など、ごく僅かだ。
まして、女性ともなると、さらに数字が悪くなる。歌や踊りなどの芸事には秀でていても、学に関してはさっぱり、などという貴族令嬢もかなりいるのだ。
その点で言えば、ティースは稀有な存在と言える。学問を修め、武芸にも通じ、かつては自領の巡察まで行っていた。それこそ、領主として勤め上げるのにも、実力的に問題ない程度の能力があったのだ。
今の境遇は、本当に“悪い奴”に目を付けられ、“運が悪かった”としか言いようがないのだ。
「なにより、ティースは公爵夫人だ。ならば、私の側近くにいたとて問題あるまいて」
このヒーサの意見も、異端であった。
女は美しく着飾っていればいい、と考える男性の貴族は多い。調度品や装飾品程度にしか女を見ておらず、あるいは世継ぎを生むための手段と割り切ってしまっている者もいる。
そうした女性蔑視の考え方が蔓延しているのも、現在の社会情勢であった。
しかし、ヒーサは違った。ただでさえ少ない女性の就学者を遊ばせておく方が勿体ない。そう考えるからこそ、ティースを自分の秘書官にと誘っているのだ。
なお、現在、公爵家の屋敷で務める者の中で、きっちりとした読み書き計算ができる女性と言えば、ヒサコ(自分)、テア(侍女)、ティース(嫁)、ナル(嫁の侍女)、アサ(侍女頭)だけである。
アサが後釜にと考えている女官数名もできなくはないが、少し能力的には不安がある、とヒーサは考えており、任せることはできなかった。
そのため、父マイスの代では、行政に携わるのは全員男性であり、ヒーサのように女性スタッフを入れているのは、まさに異例中の異例と言えた。
「それで、どうするかね? 引き受けてくれるかね? もちろん、断ってもらってもいいし、そうした場合は領内なら好きに過ごしてもらっていい」
「いえ、当然、お引き受けいたします」
ティースは即答で引き受けた。
なにしろ、領主の執務に携われるということは、そこにある機密性の高い数字、情報に触れることができることを意味していた。公爵領内のことを知るのであれば、直接見て回るよりも遥かに効率がいいと判断したからだ。
その点はナルも同様のようで、主人の判断を尊重することにした。侍女の仕事を務める傍らで、どうにか時間を作って様々な調査を行うつもりでいるが、それにも限界があった。
だが、ティースが機密情報に触れられるのであれば、話は変わってくる。より精度の高い情報が得られるし、それを元にした的を絞った調査ができるというわけだ。
しかし、それだけにナルは不信に思うこともがあった。自分がこうした発想をできる以上、ヒーサもその考えは持っていてもおかしくない。にも拘わらず、ティースに秘書官の地位を与えたのである。
単に、読み書きのできる女性という理由で登用したのか、あるいは“偽情報”を掴ませて、こちらの撹乱を行うつもりなのか、この点で判断が迷うのであった。
(現状では、なるようにしかならないか)
情報をもたらすのはティース、それを掘り下げていくのがナルとマーク。これで現状はいくしかないと、ナルは考えた。
分かっていたとはいえ、人手が圧倒的に足りないのだ。覚悟を見せ付ける意味で、従者を少数精鋭で固めはしたが、もう二、三人くらいは連れてきてもよかったかもしれない。
あの時の判断が間違ったものとは考えていないが、もう少しやりようはあったかもしれないなと、ナルは思った。
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