3-19 巡察中断! そろそろ家路につくとしよう!

 合コンの話をしたり、夫とその妹の疑惑に迫ったり、レベルアップしたりと、忙しない村と村との移動であったが、次なる村に到着した。


 予定していたよりも遅かったため、待ちわびた村人がソワソワしながら待っており、それを見たヒーサは、遠巻きながら集まる村人に手を振ると、歓声と共に皆が手を振って応じた。



(ここでも歓迎か。ほんと、“外面”に関しては完璧よね)



 前を行くヒーサと、歓迎の意を示す村人達を交互に見ながら、荷馬車を操るナルはそう思った。


 何をどうやっているのか分からないが、とにかくヒーサの人気、人望はすさまじいものであった。領内のどこへ行っても歓迎を受け、人々は来訪を歓迎し、別れを惜しんだ。


 これほど、人心を掴んだ領主など、他に存在しないであろう。



「おい、ナル」



 少し考え事をしていると、いつの間にかヒーサが馬車に馬を寄せてきていた。慌てて思考を止め、そちらを振り向いた。



「なんでしょうか?」



「今日の巡察はあの村で中断する。マークの回復が悪いようだし、念のためにな」



「えぇ~、残念だわ」



 ティースが幌から顔を出し、二人の会話に割って入り、巡察の中断を残念そうにぼやいた。


 ティースとしては、色々と見聞を広めるためのいい機会と捉えており、特に前の村での出産の立ち合いというものは、良くも悪くも影響を与えていた。


 とはいえ、ナルとの会話でヒーサとヒサコへの警戒心も呼び起こされており、安易な旅行気分と言うものは薄れてはいたが。



「そこで、ナルには今日回る予定だった村や町に中止する旨を伝えてきてほしい」



 巡察を中断するのであれば至極真っ当な話ではなったが、ナルは露骨に嫌そうな顔をした。


 それもそのはず。中止の伝令が主目的でなく、ティースとの別行動を仕組む方が怪しいと感じたからだ。先程のヒサコによる奇襲もまた、ティースと別行動しているときに発生していた。


 そう考えると、使い番として行ってこいというのは、ティースが無防備になることを意味していた。しかも、今回はマークがまだ回復していない状態である。


 先程以上に危険なのであった。


 それを知ってか、ヒーサはニヤリと笑ってきた。



「テアは私の専属侍女であるが、同時に医者の助手でもある。往診も兼ねている以上、離れて行動するわけにはいかない。マークはまだ体調がよくないし、公爵夫人であるティースを使い番扱いするのは論外だ。となると、残るはナル、お前しかいない」



 ヒーサの言は正論であった。もしこの中で使い番として走らせるとなると、ナル以外の選択肢は有り得ないのだ。


 どうしたものかと悩むナルであったが、そんな彼女にティースは肩をポンポンと叩いて落ち着かせようとした。



「私は大丈夫だから、行ってきてちょうだい」



「ですが……」



「いいから、行ってきて。大丈夫、この場で何かするようなことは、もう多分ないと思うから」



 ヒサコが奇襲を仕掛けたのは、朝一で飛び出してずっと準備と待ち伏せをしていたからだと、ティースは考えていた。


 ここで更なる追撃が来るとは思えないし、あるとすれば屋敷に帰ってからではないかと判断した。


 屋敷内であるならば、ナルと合流すれば怖いものなしである。ずっと一緒にいるし、ヒサコが仕掛けてくる隙もないはずなのだ。



「分かりました。ですが、注意してくださいね。いつちょっかい出してくるか分かりませんので」



 こうして、再び別行動をすることになったナルであった。


 村に着くと同時に、空いていた馬に跨り、次の村へと駆け出していった。とにかくさっさと伝令役をこなし、一秒でも早く主人ティースの下へ戻るためだ。


 そして、毎度のごとくヒーサ一行は村人達から歓迎され、しばしの間、歓談するのであった。


 その心の中に次なる策を秘めながら。

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