3-18 レベルアップ! そして、街道にファンファーレが響く!

 雑談、あるいは情報の擦り合わせをしつつ、街道を馬で進むヒーサとテアの耳に、聞き覚えのある音色が突き刺さった。




 チャラララッチャッチャッチャ~♪


 スキル【本草学を極めし者】のレベルが上昇しました。転生者プレイヤーは所定の手順に従い、カードを引いてください。




 やっぱり来たか、そう思った二人は特に顔色を変えることなく、お互いの顔を見やった。



「経験値、貯まったわね」



「先程の手術で一気に稼いだと言ったところか」



「麻酔なしの開腹手術なんて、普通の医者なら考えもしないでしょうね。あまりに突飛な行動に、経験値ゲージもびっくりでしょうよ」



 そうこう言葉を交わしているうちに、これまた見慣れた箱が現れ、二人の間の空間に固定された。



「この箱って、後ろの連中には見えているのか?」



「それは大丈夫。この箱が見えるのは、転生者プレイヤーと神だけだから。何かをまさぐっているようにしか見えないわよ」



「ならば、よし」



 ヒーサは心置きなく現れた箱に手を突っ込み、ゴソゴソとまさぐった後、一枚のカードを引っ張り出した。色は銀色、Bランクのカードだ


 そして、そのカードの見るなり、ヒーサは目を丸くして驚いた。



「だから、神様よぉ~、ランクの振り分け方、おかしいぞ。この能力が“びーらんく”とか、頭おかしいぞ。本気でどうなってんだってくらいおかしいぞ」



「はぁ~?」



 テアはヒーサが見せつけてきたカードを凝視した。そこには【毒無効】と書かれていた。



「ああ、それね。文字通り、毒に対する完全耐性を獲得できるわよ。おめでとう、これであなたは医者いらず。毒も病気もさようなら。いつまでも健康体でいられるわよ」



「毒どころか、病気にも有効なのか!?」



「ええ。精神系の病気なら【精神耐性】のスキルがいるけど、【毒無効】なら、ウィルス、細菌、毒素や腐敗物の接種にも対応できるわ。それこそ、毒蛇に噛まれようが、フグを食べようが、カエンタケを丸のみにしようが、全然平気でいられるわよ」



「やはり強力ではないか!」



 病気、毒を一切受け付けない体。養生を第一に考え、様々な健康法をかつての世界で試してきた者なのだ。


 城に火の手が回り、じきに焼け死ぬという段階になってすら、頭の上にお灸を据えていたほどである。


 そんな松永久秀にとって、毒も効かない、病気にならない体など、まさに破格のスキルと言えた。



「あ、でも、酒毒も防ぐから、酒に酔えなくなるわよ」



「なにぃ!? くっ……、それは残念ではあるが、理想の健康体のためにはやむ無しか。早く茶を手に入れねば、酔えなくなるではないか!」



「え? 茶で酔えるの?」



「雰囲気に酔いしれるのだ。風情と言う最高の肴を以てな」



 残念に思いつつも、健康のためならやむを得ないと、ヒーサは酒を断つこととした。飲んだところで酔えぬ酒なら、水であっても変わらないのだ。



「摂取しても意味がないということは、例えば、毒薬を飲み込んだとしても大丈夫と言う事か?」



「ええ、そうよ。それこそ、ヒ素をがぶ飲みしようが、トリカブトを丸かぶりしようが、死ぬどころか苦痛もないわよ」



「ほほう……、面白い」



 ヒーサは何かを思いついたのか、またいつもの禍々しい笑顔を浮かべ始めた。こういう顔をしたときには、毎度ろくでもないことが起きるのであった。


 テアとしても、慎重にならなくてはならなかった。



「……で、何をするの?」



「今宵は我が花嫁と、床を同じくしようと思ってな」



「お、やっと夫婦らしいことをするのか」



 なにしろ、ヒーサとティースは結婚してからすでに半月以上が経過している。その間、かなり多忙であったため、夫婦らしいことはただの一度もなかった。


 せいぜい、結婚式場での口付けくらいだ。



「女神よ、一応聞いておくが、おぬしは毒くらい平気であるな?」



「そりゃね。【毒無効】くらい、パッシブスキルとして標準装備してるわよ」



「ならば安心した。巻き添えをくらうこともないな」



「おい、こら。なんで夫婦の営み云々の話が、毒物の巻き添えなんて話になるの!?」



 やはり嫌な予感しかしなくなってきた。何を考えているのか分からないので、ニヤつくヒーサにテアは戦慄せざるを得なかった。



「よし、そうと決まれば、次の村で今日の巡察は終了としよう。色々と準備があるかなら」



「……私も巻き添え?」



「毒が無効であるならば、耳を塞げばなんの問題もないぞ」



「逃げたい……」



「魔王をどうにかするまで、それは無理なのでは?」



「チクショウ、正論だ、それ」



 嫌々ながらも、ヒーサの悪事に巻き込まれることがまたしても確定したテアは、我が身の不幸を呪わざるを得なかった。


 いったいどこで間違えたのか。そう、単純にパートナー選びにしくじっただけなのである。


 早く終わらせて、この世界からおさらばしたい。そう思わざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る