2-19 無茶ぶり!? 準備の方はお任せします!

 様々な思惑が交差する御前聴取も終わり、ヒサコとトウは王都ウージェにあるシガラ公爵家の上屋敷に戻っていた。


 結果を端的に言えば、大成功である。


 騒動の原因、犯人を異端宗派『六星派シクスス』に押し付け、そちらに注意を向けさせる事ができた。


 しかも、カウラ伯爵ティースをとことんいじめ抜き、その策を握り潰した。


 そして、ヒーサとティースの婚儀が決まり、これで実質、カウラ伯爵家の吸収合併が決まったようなものである。


 あとはティースの財産を吸い上げ、もののついでにあの見目麗しい女領主を貪り食らうだけ。


 まさに完全勝利であった。


 出迎えた上屋敷の管理者たるゼクトにその一部始終を伝えると、当然ながら驚かれた。



「三日!? 三日後に挙式ですと!? それはいくらなんでも……!」



 当然の反応であった。期間が短すぎる、それがゼクトの偽らざる本音であった。


 なにより場所の問題だ。


 公爵家領内であれば色々と融通が利くし、人も道具も揃っているから突貫で進めても、どうにかなるかもしれない。


 しかし、ここは王都の上屋敷。なにもかも自由というわけにはいかない。


 式場は枢機卿のヨハネスの計らいで大聖堂を使わせてもらえることとはなったが、人員配備はどうするのか、招待客は誰にするのか、式の段取りはどうなのか、それを三日でやり切れなどというのは、いくら何でも無茶苦茶であった。



「ふふふ、宰相閣下もあなたと同じ顔をしていたわね」



「それはそうでしょうな。あちらも準備で大慌てとなるでしょうし。ああ、ともかく急がねば!」



 ゼクトは慌てて屋敷の中へと戻っていき、あれやこれやと指示を飛ばしていた。焦ってはいるが、それでも必死でこなそうとする様には好感が持てた。



「あ~らら、大変ね~」



「誰のせいよ、誰の。身内だけのこじんまりとした挙式ならともかく、国を挙げての華燭の典を、三日で用意しろだなんて無茶ぶりもいいところだわ」



「もちろん、頑張ってもらわないとね。何しろ、お兄様の挙式なんですから、皆に盛大に祝っていただかないと」



 などと宣うヒサコではあったが、それは一人芝居以外の何ものでもなかった。


 そもそも、ヒサコなる人物は始めからいない。ヒーサこと、松永久秀によって生み出された“影”でしかないのだ。 


 そんな影相手に、先程の御前聴取の席では皆が騙されたのだ。


 生きているのか、存在しているのか、それすらあやふやな人形に、誰も彼もが騙されたのだ。


 しかも、それはこれから起こる事の前振り程度でしかない。


 虚実を織り交ぜた兄妹の動きは、まだまだこれからなのである。



「んじゃま、お兄様のお見舞いに参るとしますか」



「ええ、そうですわね」



 ヒサコはトウを連れ立って、ヒーサが休んでいる寝室へと向かった。


 もちろん、それは茶番でしかない。なにしろ寝室には、誰もいないからだ。

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