1-45 真相発覚!? 裏切りの侍女!
森での一騒動から一夜が明けた。
あれからヒーサとテアは手早く屋敷に戻り、何食わぬ顔で就寝した。
そして、翌朝、騒ぎが少しずつ大きくなっていった。というより、大きくした。
ヒーサがいつものように目覚めるも、リリンが“なぜか”起こしに来なかったことを侍女頭のアサに尋ねたところ、自室にも姿がなかったのだ。
いないのは当然だ。なにしろ、リリンは“ヒサコ”に殺されたからだ。
それを知っているのは、森での騒動、その現場にいた二人だけだ。
そうとは知らず、アサは皆に聞いて回ったが、昨夜からの足取りはようとして知れず、侍女達の間で騒ぎになった。
何しろ、公爵付きの専属侍女の失踪である。ただ事ではないと、皆が心配したのだ。
屋敷内には全く姿が見えなかったので、どこか心当たりのある場所を探してみてくれと指示を出し、ヒーサは公爵としての執務に取り掛かった。
そうしていつもの雑務をこなしていると、カンバー王国の王都ウージェから使者が来訪した。先頃の事件についてのあらましを伝えておいたので、その返答というわけだ。
「シガラ公爵マイスの次男ヒーサを暫定的ながら、新たな公爵とする。また、痛ましい事件についての聴取を行うため、近日中に王都へ来訪されたし。聴取が終わり次第、正式なる公爵への就任を認めるものとする。なお、これに類する話もカウラ伯爵に届いていると心得よ」
これが王都からもたらされた話の内容である。
おおよそ、ヒーサの予想通りであった。“出頭”ではなく、“来訪”としていた点がヒーサの予想と外れていた。
どうやら想定以上に公爵家への同情が集まっているらしく、完全に被害者としての地位を築けているようであった。
あとは、先手を打って用意した王都の有力者への“鼻薬”が効いているのかもしれないが、とにかく情勢は有利に動いていることが分かり、ヒーサとしては大満足であった。
(よし、王都に行けば、女伯爵となったティース嬢とご対面というわけか。さて、あとは私好みのいい女であれば完璧なんだがな。ククク……、今から
などと悪そうな笑顔で期待に胸膨らませており、ヒーサのすぐ横にいるテアはまぁた始まったよと言わんばかりにため息を吐き出した。
そうして、執務もおおよそ片付き、遅めの昼食を取っているときに報告が飛び込んできた。
領地の外れにある森の中で謎の遺体が六名分発見され、そのうちの一つがリリンではないか、という話が舞い込んできたのだ。
さて来たなと思いつつも、ヒーサは表情一つ変えずに頷き、詳しく調査するように命じた。そして、自分は何事もなかったかのように、王都への出立準備に取り掛かった。
そして、翌日の昼過ぎには、簡単な調査を終えた者達が戻って来た。
その報告を聞いた屋敷の主だった面々は愕然とした。
まず、謎の遺体六つの中にリリンが含まれていた事。
次にその六人の間で争いがあったようで、爆発の跡や互いの切り傷があった事。
何より重要なのは、その六人の中に『
ヒーサにとっては目新しい情報もなく、自分が用意した状況そのままに報告がやって来た、という感じであった。
一応、驚いているふりはしておいたが、アサの取り乱し様が周囲を唖然とさせるほどに凄かったので、他のことが吹き飛んでしまったのだ。
リリンはアサの親戚筋にあたり、最近になってアサの手配によって屋敷で奉公するようになった。
そのリリンが邪教に手を染め、今回の騒動を起こした疑惑が持ち上がってきたのだ。
当然、リリンを推挙したアサへの疑いの眼差しが注がれることになり、それを否定するのに躍起になっている格好だ。
(いかんな。いささか効き過ぎたか)
ヒーサにとってリリンへの濡れ衣は自身への容疑を逸らすための一手であったが、内部の不和を招き、却って組織を損なっては公爵の地位が無駄になると判断し、追加の一手を打つことを考えた。
「このままでは埒が明かん。屋敷に勤める者、すべてを庭先に集めてくれ」
ヒーサは動揺する主だった面々にそう告げ、今回の事件の締めの一手を解き放つこととした。
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