俺の身も心もボコボコにした元彼女と浮気相手……絶対に許すことは出来ない! 徹底的な復讐と、そして始まる新たな……。

こまの ととと

絶望と復讐とそして……。

 俺こと佐々木陣は夜の街を一人で歩いていた。

 本来なら彼女である結城仁美とデートの予定だったのだが、突然のドタキャンにより手持ち無沙汰になってしまった。


 前もって用意していた映画のチケット、無駄にはしたくなかったので一人で見に行ったが、やはり彼女がいないとどっか味気ない。いまいちストーリーにのめり込むことが出来なかった。


「はぁ……。ん? あれって」


 たまたま通りがかったラブホから出てくる一組のカップル。相手の男の方は知らないが、その片方――女性の方はよく見なくたって見間違えるはずがない。俺の幼馴染にして恋人である仁美だ。


 当然俺は詰めよった。


「おい! これは一体どういうことだよ! その男は一体誰なんだ?!」


 俺の隣声を聞いて男の背中に隠れる仁美。そして相手の男は鬱陶しそうに俺の顔を見ていた。


「ああ? ああお前は仁美の元彼のチンケな野郎か。俺の女になんのようだ?」


「俺の女だと!? 大体元彼ってどういうことだよ。おい仁美!」


「うるせえ! 人の女を気安く呼ぶんじゃねぇ!!」


 その瞬間、俺の顔面にパンチが飛んできて。何が何だか分からないまま崩れ落ちる俺に、つま先で腹を何度も蹴られた。


「ごッ!? がはッ?!?!」


 内臓をえぐられるような不快感と痛みで頭がおかしくなりそうだ。それでもなんとか顔を持ち上げて相手の男を見上げるが、視界がぼんやりとしていてよく見えない。


「てめぇ……っ! 一体誰なんだよ……! ぐっ……」


「……しつこい野郎だなてめえも。見りゃわかるだろ? 俺はな仁美の彼氏だ。話が聞かされてたけどよ、本当になよっちい男だな。おい仁美、こいつどうするよ?」


「もうほっとこうよそんな奴。……陣さ、これでわかったでしょ? もうあんたみたいな男と付き合うつもりは無いの。じゃあ行きましょ」


 朦朧とする意識の中、分かったことは二つ。

 くん付けて呼んでいた彼女が俺のことを蔑むような目で呼び捨てにしていた事。

 その彼女が嬉しそうに不良然とした男と腕を組んで夜の街に消えて行ったことだ。


 そこで俺は意識を手放した。



 それからしばらく、俺は病院にお世話になった。

 散々殴られた上に打ち所が悪かったようで、一ヶ月以上も入院生活を送るはめになった。

 やっと退院して学校に戻ると、俺の評価は一変していた。


 今まで付き合っていたはずの幼馴染である結城仁美とは一切の関わりが持てず、代わりにクラスの連中から陰口を叩かれるようになった。


「あれ? 佐々木くん、よく平気な顔で学校に顔を出せたね」


「あんた仁美に乱暴したんでしょ? 嫌がるのに別れてくれないって、新しい彼氏に泣きついたんだってね。ボコボコにされて、いい気味だよね」


「お前みたいなクズが学校にいるとか、評判が下がるんだよ。暴力事件を起こす前に退学してくれよ!」


 わけのわからないことばかり言われて、俺は耐えきれず自主退学することになってしまった。



 だがそんな俺を許さない男がいた。俺の親父だ。



「お前! 勝手に学校を辞めるなんてどういうつもりだ!! イジメられただかなんだか知らないが、そんな理由で逃げるなんてクズのやる事だぞ!! お前のせいで世間から俺がどう見られるか考えたことはないのかッ!?  この恥晒しめ!!」


 めちゃくちゃなこと言って殴りかかろうとする親父。

 そんな親父から俺を庇ったせいで母は殴られてしまった。


「そこをどけ!! こんな奴は徹底的に痛めつけないと根性が変わらないんだよ!!」


「もうやめてアナタ! 一体この子が何の悪いことをしたって言うのよ!」


「うるさい! お前がそんなんだから息子がクズに育つんだ!!」


 もう一度母を殴ろうとする親父を見て俺はついカッとなり、テーブルの椅子を持ち上げて――何度も親父をぶん殴った。


「や、やめろ! やめっい、痛い!? お前親に向かってなんてことをするんだ?!!」


「うるせえ!! 俺だけじゃなくて母さんを馬鹿にしやがって!! クソがッ!!」


 何度も何度も殴り続け、やがて親父は涙を流してうずくまった。

 その姿が、あの時の痛めつけられた俺とリンクして……俺の中で何かが変わったような気がした。



 結局そのことが原因となり両親は離婚。俺は母に連れられて、母の田舎へと移住する事となった。


 高校を辞めた俺は、その田舎でバイト生活を送りながらも、その雄大な田舎の環境を利用して体を鍛えることにした。


 ……ある目的のために。



 それから数年後のことだ。



 俺は生まれ故郷に戻ってきた。もちろん目的は……。


「やっと見つけたぞクソ野郎……」


「あ? ……な、なんだお前!?」


 昔、俺を痛めつけてくれたクソ野郎。そいつが驚くのも無理はない。


 俺にはもはや当時の面影はなく、徹底的に鍛えられた体はそのクソ野郎よりも大きく上回っていたのだから。


「昔さァ……お前俺にこうしてくれたよなァッ!!!」


「ぐほッ!?」


 まずは一発、顔面に右ストレートをお見舞いしてその鼻っ柱を粉砕骨折させた。

 鼻血を流しながら倒れるそのクソ野郎。当然こんなもので済ますつもりはない。


「や、やめ……、やべで!!? ごべんなざい! ゆるじでくだざいぃ!!」


 地面に這いつくばって命乞いをするそいつの頭を思い切り踏みつけた。何度も何度も、あの頃を思い出しながら踏みにじった。


「なんだ? もう少し持つと思ったのに、呆気なかったな」


 顔中から体液を垂れ流す汚物につばを吐き、俺はその場を後にした。



 次の目的は当然……。



 俺はこの町に戻ってきて、学生時代に俺の事を無い事無い事好き勝手言ってきたクソ共を脅し周って、かつての恋人である仁美の情報を入手していた。


 高校を卒業して、あのクソ野郎と結婚したらしい。現在妊娠中らしく、さぞ人生の絶頂期を楽しんでいることだろう。


 だからこそ、復讐のしがいがある。


 俺は現在の仁美の住所を尋ね、インターホンを押した。


「はーい。……あ、あのあなた誰です――があ!?」


 開かれた扉。

 出て来た悪い意味で垢抜けたかつての恋人、その膨らんだ腹目掛けて蹴りを放ち、玄関の奥へと吹き飛ばす。


 ガチャ。玄関の扉を閉めて鍵を掛ける俺。これで万が一誰かに見られる心配はない。


 腹を思いっきり蹴られたことで、倒れふしながら汚らしく吐瀉物を吐き出す仁美。

 俺はその姿を見て――気づいた時には何発も何発も腹を蹴りつけていた。


「ぃ、ぁ……もうやめ……ぃだい、痛ぃ……」


 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら懇願する仁美。だが俺はそれを完全に無視して、ただひたすらに蹴り続ける。


「ひぎっ! うぐぅ!? あ、赤ちゃんがぁ!!」


 まだ生まれていない赤ん坊の事を案じて必死に叫ぶ仁美だが、もちろん俺には関係ない。


 仁美の髪を無理やりつかんで持ち上げながら尋ねた。


「おい、俺の事覚えてるか? かつてお前に裏切られて人生をめちゃくちゃにされた幼馴染の陣だ」


「じ、陣……くんなの? どうしてこんな……ひっ!?」


 どうして、その言葉を聞いて俺は怒りが燃え上がれ顔を思い切り歪めた。


「どうしてだと? お前がそんなことを聞くのか!! おい、一度しか言わないからよぉく聞け? どうして俺を裏切った、俺を捨てたァ?!!」


「そ、それは……だって。私だって最初は無理やり襲われたの! でもいつの間にかあの人が……お、男らしく見えてきて。それでっ!」


「男らしいって何だ? 野蛮で畜生にも劣るようなことをやるのが男らしいってのか?! ふざけるなッ!! お前、蹲った俺を汚いものでも見るような目で見やがったな、あれはどういう意味だ?」


「うぅ……だってぇ……! 私は悪くないもん! 悪いのは陣くんだもん!! あんなに簡単にやられちゃうなんて」


「この期に及んでそれか? お前そればっかじゃねぇか!! ええ!? 男らしくないからァ!? そんな理由で俺を捨てたのかてめえは!? ふざけるなッ!!!」


「ひ、ひぃっ!!」


「俺よりもあのクソ野郎を選んだのもそれが理由か? あの時の俺の痛みをお前にも味あわせてやる。いや――俺が味わった何倍も痛めつけてやるよ!!」


 恐怖に怯えた仁美の髪を引っ張って引きずる。そして仁美の顔面を変形するまで何度も何度も殴りつけた。


 やがて静かになった頃、俺の手は汚い血で濡れていた。まだ微かに息はある。


「感謝してほしいぐらいだ。……あばよ」


 俺は汚物共の家を出た。

 あの顔じゃもう男から相手にされないだろう。


 復讐は完了した。そのことに対して長年のつっかえが取れたようにスッキリとしたが……すぐ後に襲ってきたのは、言いようのない虚脱感だった。


「はっ、そうか。生きがいを失くすってこういう事か……これからどうしよう?」


 今日のために鍛え上げた体。

 元より俺の人生は破滅させられていて、捨て鉢になったからこそ身につけた筋肉だ。

 途端に未来が見えなくなって、あてもなく町を彷徨っていたところ……。


「げへへ、いいじゃねぇかよ。俺と一緒に楽しい事しようぜ」


「や、離してください! 誰か、誰か助けて!!」


「誰が助けるって言うんだよ? ここには俺とお前しか――がッ!?」


「残念な事に俺も居る。このクソ野郎が、胸糞の悪いもの見せやがって」


 女子高生を襲っていた暴漢を見て、ついむしゃくしゃして頭を殴り飛ばした。


「ひっ、ひぃぃ!!」


 暴漢は頭を抑えて逃げて行く。さすがにあそこまでやればもうこの子に手を出さないだろ。


「これで大丈夫だろ? 気をつけて帰りなさい」


 無事を確認して、その子の元から去ろうとしたのだが……。


「ま、待って下さい! 助けてくれてありがとうございました。あ、あの何かお礼を……」


「いいって別に」


「それでも! 何かしてあげたいんです!!」


 意外と強情な子だな。



 その時の俺は知らなかった。

 それが新たな人生の始まり――幸せな恋の幕開けだという事を。

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俺の身も心もボコボコにした元彼女と浮気相手……絶対に許すことは出来ない! 徹底的な復讐と、そして始まる新たな……。 こまの ととと @nanashio

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