家賃一万、風呂無し。幼馴染付き
烏丸英
幼馴染がやってきた
幼馴染がやってきた!
「やっほー、
「は……?」
聞き覚えがある、だが久しく聞いていないその声の主へと顔を向けた彼は、ニコニコと笑う少女の姿を目にすると驚きに息を飲む。
「お前、かすみか……?」
「正解! よくわかったね!」
「わかるって。お前、引っ越してった時と全然変わってねえもん」
浮かべていた笑みを強めたかすみが、嬉しそうに声を弾ませながら喜ぶ。
そんな彼女の姿を見ていた幸太郎もまた、懐かしさを覚えながら思わず笑みを浮かべれば、いたずらっぽい表情を浮かべたかすみが少し近寄りながらこんなことを言ってきた。
「でもさあ、全然変わってないってことはないと思うよ? ほら、こことか大きくなったしさ!」
「ぶっ……!!」
そう言いながら、自身の胸を下から支えながらたゆんたゆんとかすみが揺らす。
想像もしていなかったその行動に噴き出した幸太郎は、苦笑しながら彼女へと言う。
「やっぱお前、変わってねえよ。昔っから似たようなことしてたよな」
「そういう幸ちゃんは大人になったね。昔は私にからかわれたら、もっと慌ててたのにさ」
「当たり前だろ? 俺たちもう、十八歳だぜ。もう立派な大人だよ」
「そっか……そうだよね。あれから五年も経ったんだもんね……」
そこで口を閉ざした二人の間に、しんみりとした空気が流れる。
五年前、突然にやって来た別れ……それまでずっと一緒に過ごしてきた二人は、中学二年生の時にかすみの両親の転勤がきっかけで離ればなれになった。
二人がその時の悲しさを思い出す中、また一歩近づいたかすみが幸太郎の顔を見上げながら言う。
「……幸ちゃん、大人になったね。背も高くなって、格好良くなった。ねえ、今、身長どのくらいなの?」
「最後に測った時は百八十ちょいだったかな? あんま覚えてねえわ」
「うわ、でっか! 中学の頃からまた大きくなってるじゃん!」
「そういうお前は変わんねえな。小さいまんまだ」
「あ~っ! そういうこと言う? ちぇっ、私もおっぱいとかお尻じゃなくって、栄養がもう少し身長に行ってくれてればな~……」
かすみは中学生時代から背が低かったが、今もそれは変わっていない。
逆に、同級生の男子たちの中でも背が高かった幸太郎は高校に通っている間にも少しずつ背が伸びていたため、二人の身長差は広がってしまったようだ。
幼馴染との差が広がったことを悔しがりつつ、小柄な体躯に見合わないサイズに育った胸と尻を揉むかすみ。
気恥ずかしさから、そんな彼女から軽く視線を逸らした幸太郎は、すぐそこにある扉を指差して言う。
「ここ、俺が働いてる店なんだ。奢るから、ちょっと寄ってけよ」
「いいの!? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね!」
季節は冬、外で話し続けるには寒い時期だ。
かすみの小さな手が震えていることを見て取った幸太郎がそう提案すれば、彼女は嬉しそうに笑いながら頷いてくれた。
(五年ぶりか……ホント、懐かしいな……)
久しぶりにかすみと会えたことを喜ぶ幸太郎には、色々と彼女に聞きたいことがあったが……食事でもしながらゆっくり話をすればいいと思った。
純粋に幼馴染との再会に心を弾ませている彼が、かすみを伴って店の扉を開けようとしたその時、不意に彼女が口を開く。
「あ、そうだ。大事なことを言い忘れてた」
「ん? なんだよ、大事なことって? 今、話すことか?」
「うん! とっても大事なことだから!」
わざわざ店に入ろうとしているこのタイミングで切り出す話かと、そう尋ねる幸太郎に対して大きく頷いたかすみがその疑問を肯定する。
その反応に訝し気な表情を浮かべる彼の前で、両手を合わせて拝むような姿勢を取ったかすみは、頭を下げながらとっても大事なことを幸太郎へと言った。
「本当に申し訳ないんだけどさ……暫く、幸ちゃんの家に住ませてもらえないかな?」
「……は? 家に、住ませろ?」
「うん! そう!」
一瞬、何を言われたのかが理解できずに今聞いた言葉をオウム返ししてしまった幸太郎に対して、満面の笑みを浮かべたかすみが元気いっぱいに言う。
そこで言葉の意味を理解した幸太郎は、かすみと再会した瞬間よりも強い驚きに目を見開きながら大声で叫んだ。
「いやいやいや! 何言ってんだよ、お前!? 言っとくけど、俺は家賃一万のアパートで一人暮らししてるんだぞ? そんなとこに転がり込んでくるだなんて、できるわけ――」
「まあまあ、そういう話は落ち着いてしようよ。私、お腹ぺこぺこだしさ!」
慌てる幸太郎とは対照的に、かすみはマイペースな態度を貫いている。
ニコニコと笑う彼女の姿を見つめた幸太郎は、なんとも言い難い表情を浮かべながらため息を吐くと、搾り出したような声で言う。
「お前、本当に……変わってねえなぁ……!」
「大好きな幼馴染があの頃のままで幸ちゃんも嬉しいでしょ? やったね幸ちゃん、家族が増えるよ!」
洒落にならない、と再びため息を吐いた幸太郎は、とりあえずこの話をここでするのは止めることにした。
聞かなくてはならない最重要事項が出現してしまったぞと、頭を抱えながらもやっぱりかすみとの再会を喜ぶ気持ちがある幸太郎は、訪ねてくるや否や特大の爆弾を放り投げてきた幼馴染を店の中へと迎え入れるのであった。
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