08 告白

 夏休みの最終日でした。僕は梓さんを家に呼びました。彼女にふるまうオムライスの食材ならもう揃えていて、飲み物を買ってきてもらうように頼んでいました。

 僕の部屋にはソファが置けなかったので、クッションに座ってもらいました。ローテーブルを食卓に変え、並んで座りました。


「わあっ、瞬くん凄いね! 凄く綺麗!」

「ありがとうございます」


 梓さんを呼ぶと決めてから、僕は毎日オムライスの練習をしていました。なので、正直食べ飽きていたのですが、我慢して口に運びました。梓さんは言いました。


「味も最高だね。これだけ作れるなら、キッチン業務もできるんじゃない?」

「僕なんて、まだまだですよ」


 梓さんは缶チューハイを開けました。僕は酔いたくなかったのでコーラです。お酒が入った梓さんは、さらにお喋りになりました。


「前の彼氏は本当に最悪だったよ。結婚するまでそういうのはなし、って納得してもらったのに、結局他の女の子抱いたんだよ。あたしも見る目なかったなぁ」

「梓さん、可愛いから、じきに次の彼氏ができますよ」

「そうだといいけど。軽く男性不信になっちゃった。でも、瞬くんは安心できるよ。お姉さんのこと慕ってくれてるし」


 梓さんはふわぁとあくびをしました。そんな無防備な姿を見せつけられて、僕の心は高鳴りました。


「ねえ、瞬くん、ベランダでタバコ吸ってもいい?」

「一本くれるなら」


 並んでタバコを吸いました。二回目の喫煙は苦しいものでしたが、行為と一緒で、慣れれば楽しくなるはずだと思いました。僕は、このタイミングだと思いました。


「梓さん……」

「なぁに、瞬くん」

「好きです。梓さんが好きです。付き合ってください」


 風で梓さんの前髪が揺れ、大きな目が見開かれるのを見ました。


「……ふふっ、やっぱりそっかぁ。でもまさか、瞬くんから告白されるなんて思ってなかった。いいよ、付き合おう。あたしも瞬くんのことが好きだよ」


 空いた方の手を繋ぎました。その時はまだ、ここまで。

 僕たちは敬語をやめ、呼び捨てで呼び合うことにしました。冷やかされるのが嫌だから、バイト先には内緒。そして、結婚するまでは清い関係でいるということ。

 初めて恋が実りました。でも、梓が考えていることと、僕が企んでいることは違いました。

 その日は泊めずに梓を帰らせ、僕は兄の部屋に行きました。報告です。


「僕、梓と付き合うことになりましたから」


 兄はしかめっ面をしました。


「……じゃあ、俺はもう必要ないってか?」

「そうじゃないです。僕には兄さんが必要です。梓と付き合うけれど、兄さんとの関係も続けたい」

「欲張りな奴だな」

「ええ、そうですよ」


 だって、兄からしか得られない快楽があるじゃないですか。やめるつもりなど毛頭ありませんでした。


「ねえ、しましょうよ、兄さん」


 そう言って兄を押し倒しました。梓と付き合うと言ったことがショックだったのでしょうか。兄がやけに大人しかったので、僕もいたずら心を出しました。

 兄は強気なくせに、身体は敏感な人でした。僕がいじってやると、大きく息を吐いて逃がしながら、声を我慢して感じていました。

 そんな兄のことを、僕は可愛いと思ったのですよ。僕に与えてくれたのと同じくらい、気持ちいいことをさせてあげたいと望みました。

 僕は兄に意地悪を言いました。とても記者さんには話せないような、卑猥な言葉を使って。それがそそったのでしょう。兄の反応はますます良くなりました。


「兄さん、好きです。兄さんも僕のことが好き?」

「ああ……好きだよ、瞬……」


 兄はどこか、怯えた目をしていました。自分が手にかけた相手が、まさか短期間のうちにここまでしてくるなんて、夢にも思っていなかったのでしょうね。

 僕は四つん這いにさせられ、激しく動かされ、喘ぎました。こんな姿を梓に見られたらどうなるだろう。想像してますます高ぶりました。

 終わって兄の顔を見つめながら、僕たちは本当に似ていないな、と思いました。ただ、兄の身長が高いのは父譲りかもしれないと思いました。

 僕は父のことも考えました。僕たち兄弟を作り出した父のことを。僕が生まれることができたのは、父が女性関係にだらしなかったおかげでした。


「兄さん、父さんに会いたいですか?」


 そんなことを聞いてみました。


「わかんねぇ。あいつは俺に約束したんだよ。離れて暮らすけど、誕生日は祝うし、会いに来るからって。それが一度だって守られたことはなかったけどな」

「……やっぱり、寂しいんじゃないですか?」

「だから、わかんねぇんだよ」


 僕は、兄と父を会わせたいと考えるようになりました。兄はまだ、父のことを想っているはず。二人が再会するなら、どんな場面がいいか。演出するのはこの僕だと思うようになりました。

 それが果たされることになるのは、もちろんご存知ですよね。それまでには、長い長い話があります。お付き合い頂きましょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る