血の鏡 ルート赤

惣山沙樹

01 福原瞬

 ああ、記者さん。それくらいでもう大丈夫です。お話しすることは、全て頭の中でまとめてありますので。

 そうです。僕が福原瞬ふくはらしゅんです。

 



 もうご承知のことと思いますが、残酷で、暴力的で、性的な内容になります。




 もう本題に入ってしまいましょう。まずは僕の生育歴からですね。

 幸せな家庭に産まれ育ちました。

 父がいて、母がいました。父は外資系の会社の役員をしており、忙しい人でしたが、休みの日は必ず僕を構ってくれました。母は専業主婦だったので、寂しい思いをしたことがありませんでした。

 動物を飼いたい、と何度か願ったことがあるんですが、父が苦手だからとそれだけは許してもらえませんでした。

 けれど、それ以外は裕福な生活を送らせてもらったと思います。誕生日やクリスマスには、僕の欲しかったものが必ず手に入りました。

 ちなみに僕の誕生日は三月です。早生まれではありましたが、僕の知能の発達は良く、文字が読めるようになったのも他の同年代の子供と比べ早かったと母から聞いていました。

 まあ、母の教育の賜物もあったのでしょうね。幼いときから、知育といいますか、ワークのようなものを家で解かされていました。

 僕はどちらかというと内向的な少年でした。休み時間には、外に出ることもなく、図書室で借りた本を読んでいました。

 僕の体格はあまりよくなく、大人になった今、身長は百六十五センチで止まりました。運動は苦手でした。

 中学も高校も、部活には入らず、家に帰ると本を読むかゲームをするかで、一人で過ごしていました。

 それでも、僕に話しかけてくる男友達は何人かいて、一緒に遊ぶことこそ少なかったけれど、孤独とは無縁でした。

 中学二年生のとき、初恋をしました。クラスの学級委員になった女の子です。彼女の周りには、いつも人がいて、天真爛漫に振る舞う彼女のことを眩しく思ったものです。

 その初恋は特に実ることもなく、そのための行動も起こさず、高校の卒業式と同時にその想いは手放しました。

 大学は、家から通えないところに進学しました。一人暮らしがしたかったんです。春休みの間に、流行を勉強して服を買い、髪を少しだけ茶色に染めました。

 そして、ファミレスのホールのバイトに応募したんです。全国的にチェーン展開している有名なところですよ。ここでは名前は控えましょう。

 多少なりとも、この性格を変えたかったんです。それであえて接客業を選びました。面接は四月にあって、その日のうちに採用が決まりました。

 そのファミレスで出会ったのが、坂口伊織さかぐちいおりさんと花崎梓はなさきあずささんです。

 坂口さんは、僕と同時期にファミレスに採用された新人の男性でした。年齢は当時三十二歳。僕より十四歳も年上でした。

 花崎さんは、僕と同じ大学の先輩でもありました。当時三年生で、二十歳の女性でした。

 役者が出揃いましたね。これからは、彼らとの関わりを順を追って話していきますね。

 坂口さんとの初対面はよく覚えています。雇用契約の書類を店長に渡しに行ったタイミングが一緒だったんです。従業員用の休憩室で、こう声をかけられました。


「同じ時期に採用だって? 同期だね。心強いな」


 坂口さんは、黒髪をスッキリとベリーショートにしていて、身長は百八十センチほどありました。僕はずいぶんと見上げなければならない状況でした。


「そうですね。これからよろしくお願いします」


 そのくらいの、無難な返事をしたと思います。何せ、坂口さんの顔立ちが、とても整っていたんです。緊張しました。ファミレスのアルバイトなんかに収まるには勿体ない。それほどの人でした。

 顔が小さくて、全身のスタイルも良く、少し垂れた大きな目は人懐っこそうな印象がありました。鼻筋も通っていて、くっきりした顔立ちでした。

 それから、坂口さんと一緒に、ちょうど休憩に来ていた花崎さんとも話しました。


「あたし、花崎梓です。大学一年生のときからバイトしてるんですよ。二年先輩ですね」


 花崎さんは、身長は百五十センチあるかないかくらい。細身の人でした。くっきりとした二重まぶたで、リスのような愛くるしさがありました。

 まさしく花が咲いているような華やかさがある人でした。黒髪をポニーテールにしていて、動作をする度にそれが揺れました。彼女は早速僕に言いました。


「あたしと同じ大学の子が入ってくるって店長から聞いてたの。よろしくね。お姉さんのことは、そうだな、梓さんって呼んでいいよ」


 僕はためらいました。同年代の女性のことを、下の名前で呼んだことが無かったのです。けれど、先輩ですから。従わなければなりません。僕は梓さんと呼ぶことに決めました。続いて彼女は坂口さんに話しかけました。


「年上の後輩って初めてなんですよね。どうしようかなぁ……」


 しばらく話し合って、彼らは坂口さん、梓ちゃんと呼び合うことに決めたようでした。彼女にとっても坂口さんは一回り年上ですからね。遠慮があったんでしょう。

 面接のときに、アルバイト用の服や靴のサイズは伝えてありましたから、男子ロッカーまで行って、坂口さんと試着をしました。彼の筋肉質な身体が見えてしまいました。よく鍛えられていました。

 サイズは問題なく、その日はそれで終わりました。僕は、土日と講義を入れていない水曜日のお昼の時間帯に入ることになりました。

 坂口さんはというと、フリーターだということで、僕よりも多くシフトに入ることを聞かされました。

 それからむくむくと、僕の好奇心は湧いていきました。坂口さんほどの容姿の人が、どうしてファミレスなんかでアルバイトを始めたのだろう、と。僕は彼と仲良くなりたいと願いました。

 

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