第122話 『特別な人』

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「ちょっと疲れてたからしばらくの間掛居さんにお願いして休憩してたのよ。

 いらっしゃい、遠野さん。

 この間はご希望に添えなくて申し訳なかったわね」



「いいえ、気にしないでください。

 社内規定なら仕方ないです。

 今日は私も掛居さんと同じように凛ちゃんパパに『お疲れさまです』って声掛けさせていただいてもいいですか?」



「3人もの美女から声掛けされて凛ちゃんパパも少しは疲れが取れるかしらね」


 芦田さんが当たり障りのない対応をしていると、ちょうど注目の的……

相原さんが登場。


 すると、私が抱いていた凛ちゃんを芦田さんに渡そうとしたのを遠野さんが急に横から強引にもぎ取り、驚いている芦田さんと私を他所に、まるで今日の保育を担当していたかのように振舞うのだった。



「お疲れさまです。凛ちゃん、今日もいい子でしたよー」


 そう言うと自ら凛ちゃんを相原さんに渡した。


 驚いたものの、芦田さんと私も声を揃えて凛ちゃんパパに

『お疲れさまでした』と労いの言葉を掛け見送った。



 彼が部屋から出て行くと遠野さんは

「勝手なことをしてしまい、すみません。次からはもうしませんので」

と芦田さんに告げ、私には何も言わず帰ってしまった。



「呆れた。さてと、掛居さんもお疲れさま。

 また来週もお願いします」


「はい。芦田さんもお疲れさまでした。お先に失礼します」


 社屋の出口に向かって歩いているとスマホが鳴った。


 相原さんからのメールだ。


「今日も送るので駐車場で待ってる」と言ってくれている。


「もしかすると遠野さんが見張っているかもしれないので、今日は電車で帰ることにします。折角なのにごめんなさい」


 私は社屋自社ビルを出たところで返信を返した。


「分かった。また連絡するよ、お疲れさま」



「はい、気をつけて帰ってくださいね」

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