第120話 『特別な人』

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「いえ、別に私はそういうのは……」


「ええ、ええ。分かってます。

 私の勝手な言い草だと思ってスルーしてね。


 あぁ、面白がったりしているわけではないことだけは分かってね。

 ただの私の勝手な想いなの。


 もう恋愛なんてっていう難しいお年頃になっちゃったので、自分を

可愛らしい掛居さんに置き換えて妄想して楽しんでるだけ。


 私じゃあ相原さんのお相手には絶対なれないから、ふふっ」



「可愛らしいだなんて……ありがとうございます、ふふっ。

 じゃあこれからかわゆい凛ちゃんの子守、代わりますね」


 芦田さんが奥でゆっくりしている間、私は凛ちゃんに読み聞かせをしたり、積み木をしたりして凛ちゃんパパを待っていた。


 凛ちゃんが待ちくたびれて私の膝にチントンシャンと座り指吸いを始めた頃、待ち人相原さんからメールが入った。


『帰りに送るので駐車場まで来て。

 車種はトヨタのプリウスで色はホワイト。

 一緒は掛居さんのほうがまずいだろ? 


 俺と凛は先に乗って待ってるから。

 え~と車は2列目の左から5番目だから』


 すごいモテてる相原さんから送ってあげるよとのオファーがあり、

芦田さんや遠野さんの顔がチラチラ浮かんでちょっとビビった。


 先に乗って待ってるってすごいなぁ~。

 こういう風に気遣いのできる人なんだ。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 保育所までお迎えに来た相原さんに、少し前に奥のスペースから起きてきていた芦田さんが声掛けをして凛ちゃんを手渡し、芦田さんと私から

『お疲れ様でした』の声を掛けられ、相原さんはいつものように部屋を後にした。


 すぐ後を追うことになっている私は気持ち、ギクシャク感半端なかったけれど、その辺を片付けるとすぐに自分も芦田さんに挨拶をして部屋を出た。


……ということで、凛ちゃんが寝ている側で他愛のない話をして私たちは

一緒に帰った。


 車で帰れるなんて、それも人様に運転してもらって、タクシーでいうならお客様状態。


 楽チン過ぎて電車通勤が嫌になりそ。


『あーっ、やっぱり遠野さんの話、聞きたくなかったなー。

 遠野さんお願いだから私を恋愛事に巻き込まないでよねー』


 私はその夜寝る前にお祈りをした。



 でもあれよね、遠野さんに狙われてもしも相原さんが陥落するようなことにでもなれば、もう今日のように車で送ってくれることもなくなるかもしれない。



 そんなことになれば少し残念だなと思った。


 折角金曜限定だけどアッシーくんが見つかったのにさ、などと

斜め上を行く思考に陥ったのだがそれ以上の深堀をすることなく、

その夜、花は意識を手放したのだった。。

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