第38話 闇のシード 3


「セレスティア様!?」


あの場を飛び出して行くと、来た時と同じ場所にいるアベルが驚いて私を止めようとした。


「セレスティア様っ……そのお姿は……!?」

「近づかないで!!」


私を引き留めようとしたアベルを感情のままに魔法で弾いた。

自分でもわかる。どんどん闇が私からあふれるように滲み出ているのを……。


ずっと隠していた。


闇のシードを光の魔法で封じる役目を告げられて、あの聖女機関の地下に連れていかれた。

でも、魔法はかかったはずなのに、闇に触れたせいか私が闇に穢された。


闇に引きずり込まれないようにと、心を塞いで感情的にならないようにしていた。


只々、城から、マティアス様から離れたかった。浮気を知った時点で、私が我慢するものはないのだと……。

でも、聖女機関の秘密を知ってしまった。だから、婚約破棄をして、逃げるしかないと思っていた。


それを、ヴェイグ様が私を連れ出してくれた。ロクサスたちを追い払ってまで……。


「セレスティア!!」


一心不乱に離宮に向かって走って来て、呼吸が乱れていた。

両膝をついたままで、今にも呼吸が止まりそうなほど苦しかった。

そんな私に、ロクサスが驚き見ていた。


「いったいどうしたんだ!? その姿は……!」

「ロクサス……」


聖女であった私が、有り得ないほど闇を纏う姿にロクサスが驚愕する。近寄ることもためらうほどに。一瞬躊躇したかと思えば、そっと近付いてくるロクサス。


「セレスティア……カレディア国に帰ろう。すぐに闇も払う……」


そう言って、ロクサスが光の魔法で闇を消そうとし始めた。


「……帰ってどうするの? 私を聖女機関に閉じ込めるつもり?」

「そんなことはしない! イゼル様にも進言する。きっと悪いようにはしない……聖女を解任されたことも、俺が何とかする。君の力は必要だ。このままでは……」

「そのイゼル様は、私を助けて下さらなかったわ!」


私を連れ帰ろうとするロクサスに感情のままに叫んだ。


「イゼル様だけは、闇のシード(魔法の核)に触れてから私の髪が黒くなったことをご存じだったのよ!? それなのに、何も庇ってくださらなかったわ! 周りの噂を知っていたのに!? どれだけ私が嘲笑や侮蔑の的にされたか……っ、ご存じだったのよ!」

「言えるわけがないだろう! あの場所は陛下以外には秘密の場所なのだ! 光の国に闇のシード(魔法の核)があるなど……それも、ここ数年で光の力が圧されてきているのだ! 聖女の能力が落ちてきていることもわかっているだろう!! そんなことが知られれば、国の威信はどうなる!」

「だから、私が闇に侵されていっているのよ……! 私が、力不足だから……」

「それでも、セレスティアは闇に飲まれてない……」


遥か昔には、能力不足で闇に飲まれた聖女も過去にはいたと聞いた事がある。だから、この闇のシード(魔法の核)は隠されたままで守られてきたのだ。

誰にも知られずに、大聖女になる能力の高い聖女、もしくは聖騎士だけが闇のシード(魔法の核)の存在を知るのだ。


「でも……私は、そのせいで婚約破棄をされたの……」


今でも、好きだったかどうかは自信がない。気がつけば、あの仄かな初恋は消えていた。それでも、最初はマティアス殿下とは結婚するつもりだった。


それが、私の聖女にあるまじき黒髪を見て、蔑んだ目を向けた。そして、マティアス殿下とエリーゼが城の奥へと二人寄り添い消えていくのを見た。だから、もう結婚など考えなかった。早く婚約破棄をしたかった。


それなのに、マティアス様は私を利用しようとまでしていた。


でも、ヴェイグ様はマティアス様と違って、私を蔑ろにすることはなかった。私を労って休ませてくれる。

聖女でありながらも闇に侵されている私に、何の躊躇なく触れてくれた。

マティアス殿下は、この黒髪を気持ちが悪いとまで言ったのに……。


それが闇のシード(魔法の核)を手に入れるためとは知らずに、私はヴェイグ様に惹かれていた。


身体が沈んでいく感覚を覚える。胸のざわつきが淀んで、黒く染まる。


「……近づかないで……誰にも、近づきたくない……」

「セレスティア?」


気がつけばロクサスの光の魔法までも飲み込みそうな勢いで、黒い霧が広がっていった。





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