第13話 いい子
最後の村人を見送り紅夜は、さて、と三人に振り返った。
「朝食の準備をしましょう。」
「私も手伝う!」
アリスはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「ありがとう。じゃあ、また二手に分かれましょうか。」
紅夜の言葉にルイスはまた男女で分かれるものだと思った。が、それは違った。
「アリスさんは蝶々さんと一緒に、畑まで野菜の収穫に行ってくださる?ルイスさんは、私と一緒に料理をしましょう。」
「はあ?」
はーい、と元気の良いアリスの返事とは裏腹に、ルイスはぎょっとしたようだった。
「じゃあ、アリス。一緒に行こう。」
「うん。」
裏庭の畑に供に行こうとする蝶々とアリスを、ルイスは引き留める。
「ちょ、ちょっと待て!何で、僕がこの女と、」
「照れてるのか?」
蝶々がルイスに他意無く尋ねると、ルイスは、違う、と意気込んだ。
「じゃあ良いだろ。俺たちも後からすぐ向かうから。」
「ルイスさん、台所はこっちですよ。」
にこにこと微笑む紅夜に促され、ルイスは為す術なく後を着いていくのだった。
「ルイスさんとアリスさん、お二人にアレルギーはある?」
台所に着き、食料庫を見ながら紅夜は問う。
「…特に、何も無いけど。」
「そう。良かったわ。ベーコンがまだ残ってるから、これを焼いて…。卵料理も作りましょう。焼き方にリクエストは?」
紅夜はかごにベーコンの塊と、卵を数個入れる。
「…。」
「? ルイスさん?」
黙ってしまったルイスを不思議に思い、紅夜は顔を上げた。「何で、お前は僕たちに構うんだよ。」
ルイスは信じられないと言った風に呟いた。
「だって、そうだろ。僕たちとごはんを食べたって良いことは何も無い。」
「あるわ。」
紅夜は確固たる意思を持って、断言する。
「例えば?」
「一緒に食べると、美味しいでしょう。」
「…それだけ?」
あら、と紅夜は大げさに驚いて見せた。
「そうよ。私、食べることが大好きなの。しかも大人数で食べる、美味しいごはん。だから、私に協力してください。」
ぺこりと頭を下げてみせる紅夜に毒気が抜かれたように、ルイスは肩から力を抜いた。
「あーあ。仕方ないから、いいよ。協力してやる。アリスも楽しそうだし。」
「ありがとう。」
裏口の扉が開く音がする。明るいアリスの声が響いた。
「ルイスー!こうやー!お野菜、採ってきたよ!!」
かごいっぱいの野菜を、誇らしげに頭上に掲げてアリスが台所に飛び込んできた。
「アリス、じゃがいも落としてる。」
蝶々は苦笑しながら、彼女が点々と落とした野菜を拾い上げて後を追ってきた。
「ルイスさん、野菜を刻んでみる?」
アリスから野菜を受け取った紅夜は井戸から汲んだ水で、泥を洗い流す。
「刃物って扱ったことない。」
「教えるわ。大丈夫、覚えれば簡単よ。」
意外にも打ち解けつつある二人を見て、蝶々は感心する。
「じゃあこっちは卵を焼こうか。」
蝶々に誘われて、アリスは大きく頷いた。
そうして賑やかに料理をし、念願の朝食を作り上げるのだった。
朝食は野菜のスープ、少し形の崩れた目玉焼き、炒めたベーコンは紅矢が奮発して厚めに切ったもの。そして、作り置きのパンと葉物野菜のサラダがついた。デザートには、ジャムをたっぷりとかけたヨーグルトだ。
いただきます、の合図と供に双子は元気よく食べ出す。あまりの勢いに、喉を詰まらせないか心配になるほどだった。「ルイス、アリス。誰も取らないから、ゆっくり食べな。」
蝶々が苦笑する。何やら自分にも身に覚えがあるようだった。
後から、自然では次にいつ食べられるかわからないからどうしてもがっついてしまうものなんだ、と蝶々が教えてくれた。
紅夜はその様子をにこにこと笑みを浮かべながら、見つめていた。
「…紅夜?」
蝶々が、ルイスの頬についた卵の黄身をハンカチで拭ってやりながら尋ねる。
「どうかした。」
「え?うふふ…。賑やかで、いいなって思っていたところ。」
長い間、教会でひとりぼっちだった過去を思い出して、紅夜は懐かしむ。そして、もう戻れないとも思った。
村人が家族を募り、教会にお祈りや遊びに来てくれていた間も、紅夜の中には確かな羨望があった。
「こうや、食べないの?」
アリスが首を傾げる。
「丁度、お腹がいっぱいなの。」
本当は胸がいっぱいだった。
「二人でちゃんと分けられるなら、ベーコンをあげるわ。」
そう言って、ベーコンが乗った皿をルイスとアリスに差し出す。
「いいの!?」
「やった!」
二人は飛び跳ねるようにして、皿を受け取った。
「アリス、先に好きなだけ食べて良いよ。」
「ううん。ルイスが先に食べて。」
互いが互いを思うからこそ、譲り合いの精神を見せる二人の様子を見て、蝶々が、じゃあ、と言う。
「俺のも食べて良いよ。これで一人一枚ずつだ。」
「…いいのか?」
同じルー・ガルーとして、肉のありがたみはわかってるルイスとアリスが蝶々を見る。
「いいよ。」
蝶々が頷いてみせると、二人は顔を見合わせて「ありがとう」とお礼を言う。感謝をすることが出来る、いい子たちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます