第4話 純銀の弾丸
「…。」
紅夜は蝶々の髪の毛を撫でるように梳いてみる。毛質は固くて、一本一本が太い。茶色に染めているという髪の毛の生え際は、銀色に輝いていた。
蝶々の肩が震える。彼は一糸まとわぬ姿だったので寒かろうと思った。紅夜は手を伸ばして祭壇を彩っていたテーブルクロスを引っ張り、蝶々の肌を覆うようにかけてやる。
「…、ん、ぅ。」
その刺激を受けて蝶々は唸るように声を絞り出した。
「蝶々さん、あの…。」
「…。」
ぼんやりとした金色の瞳の焦点が、徐々に紅夜の姿に合う。しばらく互いに無言で見つめ合っていると、蝶々が紅夜の膝から上半身を起こした。あらわになる筋肉に紅夜は頬を染めて、目をそらす。
「紅夜。」
蝶々が紅夜の手を取って、目を合わせるように首を傾げた。そして、言葉を紡ぐ。
「銃は持ってる?」
「護身用のものなら…、何故?」
問いの答えに頷いた蝶々は、自らの首にかかっているネックレスを軽やかな音を立て外して紅夜の手に握らせる。
「?」
「純銀の弾丸だ。これで、俺を撃ち殺せ。」
ネックレスのトップには鈍く銀に光る、弾丸があった。
「頭部は初心者には狙いにくいから、心臓。胴体を狙え。」
ここだよ、と蝶々は紅夜の手を緩く取り、自らの胸に押し当てた。手のひらからは規則正しい、穏やかな心臓の鼓動が伝わってくる。
「…温かい…。」
「シスター?朝のお祈りの時間ですが?」
不意に二人だけの空間を裂いたのは、村人の声だった。時間になっても教会の扉に鍵が掛かっていて、不審に思ったのだろう。
「あ…、」
「役所に差し出すのも良い。きっと残酷に殺してくれる。」
蝶々は立ち上がり、声を張ろうと息を吸い込んだ。紅夜は何も考えずに行動に出ていた。
「ここに、ぐ…っ、」
蝶々の口元を手のひらで覆い、声を遮る。代わりに紅夜が大きな声で村人に応えた。
「すみません!すぐに開けるので、お待ちください!」
「ああ、よかった。いらっしゃるのですね。失礼しました、待ってます。」
紅夜の声を聞いて村人が安心したように返事をした。紅夜はすかさず立ち上がる。
「蝶々さん、こちらへ。」
紅夜は蝶々の手を引いて、居住区まで駆けていく。そして浴室まで来ると、蝶々の背中を押した。
「いいですか、蝶々さん。浴室なら鍵がかけられる。私が帰ってきて、浴室の扉を三回ノックするまで開けてはダメですよ。」
「…。」
蝶々は目を丸くしていた。
「返事!」
「…はい。」
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