アニメには夢も希望も魔法もない!
@TaCuan_
第0話 プロローグ
名だたる芸術家らはいかなる願望を抱いて芸術の道へと踏み入ったのだろうか。
生まれた時代、環境、差別、困難。様々な要因が関係してくるとは思うが、やはり根源には『生きる』という事柄の肯定から始まるとわたしは考える。人としての生命の根源であり、ここからいくつもの欲望や感情に起因し、枝分かれを経て様々な結末を迎えるわけだが、結局のところ死を描くことはそれすなわち、『生』を求める裏返しの意味合いを成しているのであり、同時に芸術とはこの『生』をどのように表現するのかを模索する、答えのない旅路を歩いているようなものなのだろうと思う。
長ったらしい話を要約するなら、芸術家なんてものは、結局は至極当たり前の、サラリーマンや赤ん坊、卑屈なニートから上昇志向の女優、すべての人類が当たり前のように行っている『生きる』ということを、難しくこねくり回して描いているだけ、ということだ。
ちなみにわたしは〝芸術〟という言葉が心底嫌いである。括りが曖昧で、さぞ高尚な代物であるようにみせる金メッキのように思うから。クラシカルな表現形態に対してはいとも簡単に「芸術的」と形容するくせに、現代を騒がせるセンセーショナルなエンターテインメントに対しては「芸術」という言葉を当てはめたがらず、むしろ低俗な若者文化として蔑む。現代に影響を与えているのは、常にその時代の流行りであるというのにだ。「人」の「生」に影響を与えるほどの表現。当てはめるのであれば、それは絵画たる「絵」に「人」を投影し、非現実の「存在」を限りなく現実に溶け込ませた「Vtuber」という文化だって、革新的な芸術表現と呼んでしまったっていいだろうに。
かつて「アニメ」が蔑まれていた時代があったと父から聞いたことがあったが、きっと当時の人は同じ思いを抱いていたのだろう。
アニメ。
わたしがかつて心から愛し、心から憎んだ、数多ある表現形態の内のただの一片如きこそが、人生の全てを振り回されることとなった要因にして、――わたしの夢。日本に生まれ、新たに元号も変わった晴れやかな時代において、どうしてわたしがアニメ制作などというブラック極まりないゴミクソのような仕事を志したのか。
そこには海よりも深く、空よりも高く、……なんて高尚な前口上はおろか笑える枕話すら存在しない。唐突に突き付けられた情念と欲求を否応なしに理解してしまい、アニメの門を叩いただけの話だ。
その根源はなんだったかと、過去の記憶から引っ張り出す時、草いきれの匂いまで蘇るほどの新鮮さで、必ずひとつの出来事を思い起こす。
そう、なんてことはない。ただ、一人の女が死んだだけの、――あの中学二年の夏。
あの日、わたしは冒涜的で、悪魔的で、好奇心の皮を被った気味の悪い欲望にまみれた自分の醜さを知った。
たぶんそれがわたしの始まりで。
自分の魂の色を知って、欲望の形を知り。
抗えぬほど甘美な匂いを携えて、それはわたしの夢になった。
あの女はきっと、わたしにそういう呪いをかけたのだ。
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