帝都あやしの花祓い 疫病神と疎まれた冬の乙女は、黒の従者とともに花開く
高里まつり
帝都あやしの花祓い
プロローグ
ぽた、ぽた、と。
――もう朝か。
さむい、と呟くと吐いた息が白いもやとなって立ち上った。足先の感覚はとうの昔に失われていた。
牢に入れられてからどれほどの日が経ったろう。空腹で頭がぼんやりとして、感覚が鈍くなっていた。
頭上の明かり取りは
――見つけた。
ぽつり、と。
水滴に混じり、低く落ち着いた声が鼓膜を揺らした気がした。
人影を探すも鉄格子の向こうは変わらず無人で、埃っぽい空虚な黒が広がっている。
「だれかいるの?」
久方ぶりに出した己の声が酷く
「こんな寒々しい場所にいらっしゃったとは」
今度ははっきりと声が聞こえた。若い男の声だ。
声の主を探して目を凝らしていると、入口付近の暗がりからぬらりと人影が現れた。
歩みに合わせて徐々に男の身体の輪郭が浮かび上がる。全身が見え、出で立ちに思わず息を呑む。
男は頭の先から足先まで全身黒尽くめだった。
男は着物の裾を揺らし
「ああ、なんて
顔立ちからして歳は二十代半ばくらいか。暗闇でもよくわかる冴え冴えとした美丈夫だ。しかし、服装のせいかどこか得体の知れない不気味さがあった。
長い睫毛に囲まれた瞳は吸い込まれる程に深く、
「頬はまだ痛みますか?」
「もう痛みはありませんから」
おずおずと志季が返答すると、男は労るように頬を撫でてきた。
牢に入る前に
痛みは随分前に引いている。長らく手鏡を見ていないので頬がどうなっているのか理解していないのだが、男の反応を見るに良い状態ではなさそうだ。打撲痕にでもなっているのだろうか。
「ずっとお探ししておりました。もっと早くに見つけて差し上げるべきでした」
何度も繰り返される、見つけるという表現。
この人に探される理由がわからない。戸惑いからじっと見つめ返すと、男が悠然と微笑んだ。
「さあ行きましょう、志季さま」
男は自分の名前を知っている。更に戸惑いが募る。
「どこへ行くのですか?」
「牢の外へ。花街の外へですよ」
男の薄い唇の端が持ち上がる。
「私の名は
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