一生コイビト未満

なつめオオカミ

第1話

茹だるような残暑の空気が教室の中に取り巻いていた。

喧騒の中の噂話で今日、転校生が来ると知った。

担任が入ってその後に続いて明るい茶髪がふわりと揺れる。

そっと自己紹介をしてという担任の後に元気の良い声が鼓膜に響いた。

「初めまして、神崎朔凪です!これからよろしくお願いします」

第一印象は女っぽい名前、次にハーフっぽい人。

《かんざきさくな》そっと空気に乗せて呟いてみた。

窓の外で蝉がうるさく鳴いている9月だった。


「では、神崎くんの席はそうね……いい機会だし席替えして決めましょうか」

担任の一声でクラスが歓声に包まれた。

別にこの席のままでもよかったんだけどとか思いながら学級委員長がいつのまにか作っていたくじを掲げてここから引いてくださいと声をあげていた。

先生とグルだなこれはと学級委員長から目を逸らすと転校生が目に入る。

柔らかそうな茶髪に珍しい緑…青の目。

ニコニコと楽しそうにクラスの風景を見ている。

「永海〜。あとお前だけだぞ早く引け〜!」

クラスに中心人物…大河とか言っただろうかそいつに急かされたので席を立って教卓に行きくじを引いた。

廊下側の一番後ろ、気に入ってたんだけどな。

僕の後、一番最後のクジを転校生…神崎が引く。

僕が一番最後じゃないじゃん。

「ではみなさんクジと同じ番号の席に座ってくださいね、視力などの不都合があったら随時私に相談してください」

僕の席は38…窓側の一番後ろだ。ラッキー

「皆さん咳につきましたね?転校生もいる事ですし皆さんで自己紹介をしましょうか、この学級になってから半年ですしこれから三年間一緒に学ぶ中です。もう一度仲間のことを知れるいい機会ですので頑張りましょう」

頑張りましょうって何だ頑張りましょうって、とつっこんでいたら自己紹介が始まった。

私立のこの高校は中学からの内部進学が多いというか内部進学のやつしかいないから大体の顔はしれている。

クラスの中心人物のこととなると尚更だ。

たまに誰かがネタのような自己紹介をしてみんなを笑わせたりしてるうちに転校生の番が来た。

今更だが隣だった。

「さっきも言いましたが神崎朔凪です。好きなものはゲームとドッチ。嫌いなものは納豆と勉強です。特に好きなゲームはニゲオニです。趣味はランニング、話が合う人がいたら気軽に話しかけてください!改めてよろしくお願いします」

ニゲオニ……僕もやってるゲームだ。

そんなことを考えてたら自分の番が来た

「……永海夏柘です。好きなことは読書とゲーム。推理モノとかホラーとかが好きです、ゲームはスマホからパソコンまで色々……やってます部活はゲーム部で一応部長やってます。万年ガラ空きなので暇だったら入ってください。以上です」

これでとやかく言われることはないだろ…と思いたい。

ゲーム部なんてあったんだという声が聞こえた。

まあそりゃそうだろうな、ここは私立に学校だし、ゲーム部なんて今まで名前も出たこともない部活だし。

実先ゲーム部の部員は僕をのぞいて4人、全員ゲームはプロ並みに上手いがそれだけだ。顧問の圧力で大会にも行けないから細々とやっている。

「皆さんお疲れ様でした。この後休憩を挟んで所要連絡をしてからの解散となります。明日は始業式なので遅れないようにしてきださいね、それではまた10分後に」

そう言い残して担任が去っていった。

隣が転校生だしうるさくなるなと思っていたらこちらに話しかけてくる声があった。

「なあ、永海…?だっけゲーム部があるって本当か?」

「……は?」

突っ伏していた顔を上げるとそこには転校生の神崎朔凪がいた。

僕に話しかけてくるなんて何事だ?気でも触れたのか?

「あ……やっぱり冗談とかそういう系だったか?」

「いや……実在するけど、何で?」

「入部したいから?」

疑問系で返さないでもらえるか?

きょとんと首を傾げる目の前の人間を見て顔を顰めたような気がした。

「……やめといた方がいいよ、実績も何もない部活だし暇だから」

「それこそわからないな、俺はゲーム部に興味があるから入りたいんだ。実績なんてどうでもいい」

まっすぐな目で見つめられるとこっちが反論しづらくなる。

どう断ろうかと考えていると目の前の人が消えた。

いや、語弊があるな、肩を組まされて視界からブレただけか、肩を組んで笑っているのはクラスの中心人物みたいな人……大河晴太とか言ってたような気がする。

「まあまあ永海も怖がっているしそこまでにしとこうぜ?神崎」

ニヤニヤしながらこちらを見てくるがいいのか?その神崎は迷惑そうにしているが。

「え…と大河?でいいのか、話してくれないか?俺は永海と話しているんだ」

「別にいいだろ?それよりゲーム部なんて華のない部活より陸上部に来ないか?ランニングが趣味ならきっと楽しめるぞ?いい体つきだしエースになること間違いなしだ!」

やっぱり勧誘か、まあ見るからに運動できそうだしな転校生。

まあ、やっぱりこう勧誘されたら大人しく陸上の方に行くよな、これで静かになる…。

「いや、俺はゲーム部に入ると決めたから陸上には行かない、それにゲーム部だって今まで知らなかったなら華のないと思っても仕方がないだろ?入ってみて詰まらないと感じた時はそっちに入れさせてくれ」

……こいつ断ったのか?勧誘を、それほどまでに利益のないうちに部活に入りたいの?

「……そこまでいうならいいよ、今日の午後に体験してみれば」

その一言に目を輝かせて、捕まっていた腕を振り解いてこちらに身を乗り出してきた。

「いいのか⁉︎約束だぞ!」

頷いてやれば満足したのか、振り解いてしまったことを詫びながら大河と話をしながらクラスの中央へ移動していった。

やっと静かになった。再び机に突っ伏してクラスの喧騒をBGMにしながら時間を潰す。

イヤホン持ってこればよかったかな。


ーーー

お久しぶりです夏目です。

久々にいいネタ思いついたのでのんびりやっていこうと思います。

よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一生コイビト未満 なつめオオカミ @natsumeookami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ