異世界にて。

第1話

 それは、猫族の里での話。


「おはよう。ルセフ」

 俺が農村を歩いた時。

 丑を引き連れた近所のトラ種のおばばが声を掛けてきた。


「なんだい? おばば」

 また厄介事か? 、と少し眉を潜めて言ってやると、おばばは悪びれもなく、そうだよ、と返してきた。


 「つい最近ね、この村の近くで“ムーク”が出るようになっちゃったのよ~。しかも10m級」

「10m級?!」


 “ムーク”とは、大きな蜥蜴とかげのモンスターである。

 中でも10m級とは、体長が平均よりも大きく、火を纏うものもいると言う。相当な大物だ。


「…で、退治してほしいと?」

「えぇ」

 おばばも、なんて良い笑顔で言うんだ。流石の俺でも、まぁまぁ危険だよ。


「でもお前さんはAAランクだろ?それも、猫族最強と呼ばれる男なんだから」

 少し、試すようなその姿は獲物を品定めするような肉食動物のようだ。

「はぁ、わかったよ。任せな」

 まぁ、頑張ればなんとかなるよな。


▼▽▼▽▼▽


「ふぅ~。っ終わった~!」

 ガヤガヤとした店内で、1人大声を上げカウンターに突っ伏していた。


 今は10mムークの死骸をギルドに売り付け、飲み屋で酒を煽っていた。やはり酒はうまい。これがなくては、生きていけない!

 そのまま飲み続け、あと少しで酔いつぶれる、というところで


「ありがとぅございやした!」


という店員の声に見送られ、店を後にした。



 そして店を出た瞬間、

「5m級だ!」

「10m級も出たぞ!」


 村の入り口が騒がしいようだ。

 ん?また、ムークが出没したのか。

 よし、倒しに行くか。


「ッルセフ!後ろ!」

 少し遠くからおばばの声が聞こえる。反射的に後ろを向くと


──ガァバァ、ガァバァ……。


9m級だと思われるムークが後ろから覆い被さってくるところだった。


「ッチ」

 急いで剣を抜こうとするが、酒が相当回っているようで手が思うように動かない。


 頭上には、もうムークの歯が近づいてきていた。


 ヤバい。


 そう思った瞬間、そこで俺の意識は途切れた。


▽▼▽▼▶▶


 私は、猫だ。猫族だ。

 この世界で冒険者として多くの都市を周り、多くの人々を助けてきた。


 だからこそ思うのだ。

 あんな事でぽっくりと死んでしまうのか? と。


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