逃亡勇者 ~勇者として召喚されたけど逃げちゃいます~(仮)

生虎

第1話

〇月×日、異世界へ召喚されて勇者になってから早いもので4年の月日が経つ。

召喚された世界は中世ヨーロッパ風の世界で巷で噂のナーロッパの世界と言うやつであろう。

召喚した国の名はウィンザード王国。

人至上主義の国で、人しか見ない。

獣人や亜人と呼ばれる別の種族は殆ど居ないらしいが、他国に行くと普通に居るそうだが召喚されてから1回も見たことないので本当に存在するのか最近は怪しんでいる。

まぁ嘘ついても仕方ないので多分居るのであろう。

見てみたいが今は叶わぬ夢だな。

さて、時は3カ月前に遡る。

俺はあるスキルを手に入れた。

そのスキルの名を「鑑定」と言う。

この「鑑定」のスキルは異世界召喚者に憧れる紳士淑女が垂涎するスキルの1つであろう。

読んで字の如く物や人を鑑定しその能力を確認できると言う商人まっしぐらなスキルであるが、俺は自分の装備にそれを使い驚愕の事実を知った。


「鑑定・・・はぁ?この腕輪は歴代勇者が愛用したレジェンド級アイテムと言って渡されたが・・・なんじゃこりゃ~~~!!」


鑑定してみると、「勇者封殺の腕輪」と何とも物騒な名前の付いた腕輪であった。

鑑定のレベルが低い為かは解らないが名前以外の情報は今の処確認が出来ない。

しかし、名前だけでもお察しである。

名前に「封殺」とあるが「封じて殺す・・・」少しだけ思い当たることがあるが鑑定スキルをもっと上げて確認してみないことには確証がない。

思い当たるのは、LVがここ最近一向に上がらない。

確かにある程度はLV上がったよ、でも30になって以降LVが上がっていない。

パーティーメンバーの仲間たちは「勇者はそれ位から上がりにくくなる」の一点張りである。

でも、可笑しくないか?俺がLV1~30までは普通に上がったのにここ2年以上30から一向に上がらない。

仲間たちは既に60を超えて70近くまでLVを上げている。

スタートラインが違うと言っても違い過ぎると思っていたが封殺か・・・妖しい。

先ずはこの鑑定スキルを上げる事考えよう。



時は経ち2か月後、鑑定のレベルが上がったようだ。

兎に角色々鑑定していると見える内容が増えた。

名前以外にも見える情報が増えたのがつい先ほどである。

見えると言っても頭の中に情報が浮かぶような形で特に何かが表示される訳では無い。

視えた情報を精査すると、


勇者封殺の腕輪:レジェンド級、装着者のレベルの上昇を30で固定する、即死級の攻撃を1日1回だけ無効にする。


性能は確かにレジェンド級だろう。

「即死級の攻撃を1日1回だけ無効」これの効果は大きいが、「装着者のレベルの上昇を30で固定」って・・・


「だからLVが30で一向に上がらなかったのか・・・やはりと言うか・・・薄々は解っていたけど・・・でも何でだ?」


独り言を口に出しても仕方ないな。

思考の海に沈んで行く。

勇者の目的は魔王を・・・倒す事ではない。

魔王国とこの国で呼ばれる国家はあり、そこを統べる王を魔王と称するらしい。

かつてはこの国から魔王討伐と言う名目で勇者と言う名前の暗殺者を送ったこともあるそうだ。

しかし、逆に返り討ちされて国際的にこの国は窮地に陥った。

それ以来、勇者の召喚目的が変わったと召喚時のチュートリアル的な説明で聞いた。

では、勇者の目的は・・・この国に出る厄介な魔物の討伐と、ダンジョンから貴重な素材を取って来ると言う言わば便利屋である。

清掃業者か炭鉱夫の様な存在が現在のこの国の勇者に課せられた義務らしい。

何故そんな雑用じみたものをさせる為に態々勇者召喚をするのかと言うと、勇者は召喚時に謎の仕組みで幾つかの有能なスキルを手に入れる。

基本スキルとして必ず勇者召喚で来る勇者が手に入れるスキルは「異世界言語理解」と「収納」と言うスキルである。

そして、基本性能も高い。

更にこれが一番重要なのであるが、固有スキルと言われるそれぞれの勇者に1つだけ特別なスキルが付与されて召喚されるとのことだ。

何てご都合主義だろうかと思うがその仕組みを利用して別世界から人間を拉致して働かせているのがウィンザード王国なのだが、勇者待遇と言う好待遇で篭絡されるのであろうが、俺の場合はハズレスキルだと言われている。

俺自身はそんな事は無いだろうと思うが、LV30で成長が止まると俺の固有スキルは確かにハズレなのだろう。

しかし、ハズレスキルだと言うのはパーティーメンバーの意見であって他では言われたことが無いのだが・・・

色々と考えていると、個室のドアをノックする音が聞こえる。

急いでドアを開けると、不満顔で俺を睨むパーティーメンバーの1人がそこには居た。


「おい、カス遅いぞ何してる!!」

「あ、ごめんなさい、考え事してた」

「今日はダンジョンに行くんだから早く用意しろ、それじゃあ直ぐ来いよ」

「分かった・・・」


去って行く彼は勇者PTの魔法使いである。

この国にある4つの公爵家の1家の跡取り息子様だ。

勇者PTで魔物を討伐することは名誉な事らしくPTメンバーは貴族の令息たちの憧れらしいのだが、理由は知らないが勇者って全く尊敬されていない気が我がPTを見ているとするのだが何故憧れ?と思う。

あまりに遅くなるとまたPTメンバーたちにネチネチと色々言われるので直ぐに用意して彼の後を追った。


「遅かったわね」

「ごめんなさい・・・」

「本当に勇者なのに愚図ね」


溜息を吐きつつ罵る彼女はこのPTのアタッカーである聖剣使いの女性である。

彼女も勿論貴族で侯爵家の令嬢である。


「それ位にして早く行きましょうか」

「今度からは早く来てくださいね」

「はい、分かりました・・・」


そして、このPTの実質のリーダーは彼女で、聖女と呼ばれる回復魔法のスペシャリストである。

この国の王女様の1人でもあり勇者PTと言いつつ実質は聖女PTなのである。

一応は俺の婚約者らしいが・・・


「おい、勇者の腕輪は如何した?」

「あ、必要かな?」

「ああ、必要だな、お前が弱いからあれ無いと死ぬかもしれんぞ」

「即死回避だったっけ?」

「そうだよ、早く装着しろ」

「わかった・・・」


今日はダンジョンで探索らしいが・・・勇者なのに斥候もこなす俺・・・


「カス、弱い勇者なんだから斥候位頑張れよ」

「だから、何時も言ってるけど俺は粕谷かすや英雄ひでおって名前でカスって略さないでくれる?」

「五月蠅いなカス、それで?」

「罠無し、右に進むと3体の魔物・・・」


勇者として弱いと言う事で戦闘以外は色々とさせられている俺・・・

皆がLV50超える位までは普通に俺も戦闘もこなすオールマイティーな活躍をする存在だった。

しかし、60に皆が成るころにはお荷物と呼ばれ始めた。

流石に王女様は言わないが・・・


「勇者様も頑張っているんだからそれ位で」

「ハ!分かりました。おいカス、王女様が優しいから今はこれ位にしてやるが、足手纏いは大人しく俺の言うこと聞いて大人しく働いてろ」


そう言って彼は俺を蔑むような目で一睨みしてから歩き出した。

「本当にカスは・・・」と独り言にしては少し大きい声で侯爵家令嬢が俺を詰る。

「気にしては駄目ですよ」とニッコリと笑いながらそう告げる王女様。

多分、この子が居なければ早々に逃げ出していたかもしれないなと思いつつ何時もの仕事に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る