星の恋

山川陽実子

第1話

 太陽は恋をしておりました。

 それは近くに揺らめいている地球という星でした。

 地球は常に身近に月という小さな星をまとって、あおく存在しておりました。かの星は自らはもう光も熱もほとんど発することはありませんでしたが、それがかえって奥ゆかしく見えたのです。

 ただ、太陽にはひとつ残念なことがありました。

 それは、地球を覆うものたちでした。たとえば、地球の表面を這いずりまわる動くものたちであったり、地球からわずかに離れたところにうっすらと張る膜でありました。それらが邪魔をして、愛しい地球の姿をよく見ることができなかったのです。

 ある日のことです。地球から声が聞こえてきました。

「ああ、あなただったのか。私をいつも熱く見つめてくれていたのは」

 太陽は驚きました。実はこれまでに何度も地球に愛の声をささやいていたのですが、地球がこたえてくれることはなかったからです。太陽は疑問を感じました。

「いかにも、私です。しかし、あなたはずっと私の声にこたえてくれなかったのに、今になって何故」

 地球は驚いたように震えました。

「私はあなたの声を聞いたことはなかったのだが」

 太陽は不思議に思って地球をまじまじと見つめました。そこであることに気づきました。

 地球に張っていた膜が、途切れているところや薄くなっているところがあります。もしかして、ここから声が地球に届いたのかもしれません。太陽は喜びました。

「ああ、その膜を取り払い、私にもっとよくあなたを見せて欲しい」

 しかし地球は残念そうに言いました。

「この膜は私の力ではどうすることもできない」

 太陽と地球は残念に思いました。しかし、これからは愛を語り合えると喜んだのです。

 それからしばらく経ったある日のことです。

「おや。ずいぶんと今日はあなたがよく見える」

 徐々に薄くなっていた地球に張った膜が、消えてなくなっていたのです。

「ああ。私の表面を動きまわるものたちが何か騒がしくしていたようだが。彼らのおかげなのだろうか。どんどんと膜は消えていった」

 太陽は歓喜にうち震えました。

「ああ、地球よ。私はあなたと共にいたい」

 そして少しずつ地球に近寄って行きました。地球は歓迎しました。

「ああ、あなたはなんと暖かいのだ」

 太陽が地球のそばまで来ると、地球の表面を這いずりまわるものたちは動かなくなり、そして消えました。

「美しい……」

 その身に何もまとわない地球の美しさに感動した太陽は、どんどんと地球に近づいていきました。

「愛している」

 どちらともなく呟き、太陽と地球は幸せに過ごしました。

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星の恋 山川陽実子 @kamesanpo

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