あずの猫

かなちょろ

第1話 あずの猫

 僕は飼い猫元は野良。

 今は【あず】ちゃんの猫として暮らしている。


 元々は野良猫で今までに七回は生まれ変わってる。

 そのたびに僕の尻尾の本数が減っている。

 元は九本あったんだ。

 人間には一本しか見えていないみたいだけど。

 生まれ変わるたびに一本ずつ減って残りは二本。

 後二回は生まれ変われる。


 これまでは凄い勢いで走っている箱だったり、食べ物が無くて空腹だったり、なんか急にお腹痛くなったりと散々だった。

 でも今は楽しく暮らしている。


 僕とあずちゃんが出会ったのは、とっても寒い日だった。

 お母さんが居なくなって、一緒に生まれた兄弟達も居なくなってしまって僕一人。

 寒くて震えるし、お腹空いたしで鳴いていた。

 ああ……また今回もなのかな……?

 そんな時、あずちゃんと出会ったんだ。


「ねえお母さん、ネコさんがいるよ」

「あら、まだ子猫ね」

「可愛い。 ねえお母さん、このネコさん飼ってもいい?」

「う〜ん、そうねえ……。 あす、よく聞いて。 生き物を飼うって言うのは大変な事なのよ。 可愛いだけじゃ飼えないの。 ネコさんだってご飯食べないとお腹空くでしょ?」

「うん」

「ならちゃんと毎日ご飯あげられる?」

「うん! 一緒に食べる」

「食べたらおトイレだって行きたくなるのよ。 でもネコさんは自分じゃ片付けられないの。 片付けも嫌がらずに出来る?」

「うん! くちゃいの我慢するよ」

「ネコさんだって病気になってしまう事もあるの。 そのお世話も出来る?」

「うん! 看病してあげる」

「それとネコさんはね、どうしても、あずより早く死んでしまうの。 その時は悲しいけれど、生き物を飼うって言うのはそう言う事よ。その時が来ても、あずはちゃんと一緒にいられる?」

「……うん……」

「それなら沢山沢山可愛がって、沢山沢山遊んであげられる?」

「うん!」

「それじゃ、ネコさん用のご飯も買って帰らないとね」

 

 あずちゃんの力強い返事で、僕は一緒にあずちゃんの家に行ったんだ。

 そこでお腹いっぱいミルクを飲んで、温かい部屋であずちゃんに抱きしめられて一緒に眠ったんだ。

 ただ温かい水と泡が沢山出る物で体を洗われるのは好きじゃないけど。


 その日から、あずちゃんにご飯もらって、トイレを片付けてもらって、たまに爪研ぎして怒られて、おもちゃで沢山遊んでもらった。


 どの位経ったんだろう?

 あずちゃんも大きくなって、僕もすっかり大人になった。

 それでも変わらずあずちゃんには可愛がってもらってる。

 そんなあずちゃんが病気になった。

 イン……なんとかって言ってた。

 薬飲んでも熱が下がらないらしい。

 明日、病院に連れて行こうと聞いた。

 病院……、僕が嫌いな場所だ。


 僕はあずちゃんを病院に行かなくて済むように、温めてあげようとしたけど、追い出されてしまった。

 夜中に部屋のドアがわずかに空いている。

 この位の隙間なら入っていける。

 僕はあずちゃんのベッドに登り、早くあずちゃんが良くなりますようにと、丸くなってその日は眠った。


 次の日、あずちゃんの熱は下がったようで、すっかり良くなった。

 これなら病院に行かなくて済むね。

 念のために連れて行くって聞いた時は鳴いてあずちゃんを引き止めようとしたけど駄目だった。

 ごめん、あずちゃん。

 後で気がついたんだけど、ニ本合った尻尾が一本に減っていた。

 僕の命があずちゃんを助けたのかも知れない。

 僕はちょっと誇りに思った。

 僕の中では一番の生を、あずちゃんにもらったからだ。


 そしてまた楽しい日々が始まる。

 あずちゃんと僕の楽しい日々が。



 僕の生もそろそろかな?

 それ程の月日が経っていた。

 楽しい日々だった。

 尻尾は最後の一本がある。

 あずちゃんなら生まれ変わっても、きっと見つけてくれるだろう。


 そんな事を思っていた。

 けれど、その日、あずちゃんが家に帰ってこない。

 お母さんもお父さんも慌てている。

 いつも外に行くかっこうでは無いのに慌てて出て行った。

 玄関は閉まっているのに窓には隙間が空いている。

 もしかして、あずちゃんに何かあったのかも知れない。

 僕も行かなくちゃ。


 窓の隙間から出て、後を追いかける。

 どうやら早く走る大きな箱に乗って行ってしまったようだ。

 どっちに行ったかわからない。

 でも行かなくちゃ。


 大きな箱の特徴は覚えている。

 散歩している犬、空を飛んでいるカラス、野良の猫にその箱が何処に向かったか、聞きながら追いかけた。

 ただ追いかける事に夢中で、周りを見ていなかった。

 僕は大きな箱に轢かれてしまった。


 ただ大きな箱がスピードを緩めてくれたお陰で、まだ生きている。

 お腹が少し痛い。 他には後ろ足が片方動かなくなっただけだ。

 まだ行ける。

 まだ尻尾の力を使うわけにはいかない……。

 僕があずちゃんの側にいないと……。

 

 あずちゃんがいるのはもう目の前だ。

 足を引きずりながらたどり着いた。

 この独特の臭いがするのは僕が嫌いな病院。

 ここにあずちゃんがいる……。


 普通に行ったらまた追い出されるだろう。

 夜になってから忍び込まないと。

 少し休もう……。


 病院の入り口も暗くなって、人がいなくなった。

 今なら行けそうだ。

 僕の片方の後ろ足は完全に動かなくなった。

 でもまだ片方動くし前足もある。

 口からたまに赤い水が滴るけれど、そんな痛みよりあずちゃんに会いたかった。


 まだ……、まだ、倒れちゃダメだ……。


 たまに人が入って行くドアを発見した。

 次に開いたら入ろう。

 人が入った瞬間、隙間から走って入った。

 入ったのはバレてしまったけど、捕まる前に走った。

 上手く走れないからたまに転ぶ。

 階段も上がり、がむしゃらに走ると、あずちゃんのお母さんぎ部屋から出てくるのが見えた。

 あそこにあずちゃんがいる。


 あずちゃんのお母さんは白い服を着た人と話をしながら行ってしまった。

 そしてやっとあずちゃんのいる部屋の前に。

 ドアは僕でも簡単に開ける事が出来た。

 そしてあずちゃんはベッドに寝ていた。

 なんだか“くだ”が沢山着いている。


 ベッドによじ登るとあずちゃんは眠っている。

 僕はあずちゃんに声をかけるけど、あずちゃんは起きてこない。

 それどころか、弱っていくのを感じる。

 このままだとあずちゃんが……。

 そうだ。 昔みたいに尻尾の力を使えばあずちゃんを助けられるかも知れない。

 きっとこの力を使ったらもう生まれ変わる事は出来ない。

 でも、あずちゃんのためなら使える。

 あずちゃんの隣に座ると、あずちゃんに尻尾を置いて治るようにお祈りする。

 僕の尻尾が消えて行く。

 僕の意識も消えて行く。


 あずちゃんとの思い出が浮かぶ。

 楽しい思い出しか浮かばない。

 そう、僕は楽しかった。

 もう生まれ変わる事は出来ないけど、幸せだった。

 あずちゃんありがとう……。


 僕の尻尾の力のおかげか、あずちゃんは良くなったらしい。

 僕が隣で冷たくなっているのをびっくりした病院の人がお母さんに連絡して確認した。

 あずちゃんの意識が戻った時に、大泣きさせてしまったのが心苦しい。


 なんで知っているかって?

 僕はまだあずちゃんの側にいるからだよ。

 あの後、あずちゃんは僕の毛を大事に袋に入れてお守りの用に持っていてくれる。

 だからまだ繋がりがあるんだ。

 あずちゃんがもっとずっと大人になって、お婆ちゃんになって僕の事が見えるようになるまで見守っているつもりだ。

 そして一緒に遊ぶんだ。

 広い世界で……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あずの猫 かなちょろ @kanatyoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ