チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む

misaka

第一幕……「ボス戦は、敵の体力が半分を切ってからが勝負」

第1話 フルダイブ型VRMMORPG『アンリアル』!

 フルダイブ型VRMMORPG『アンリアル』。日本だけで約3,000万ユーザーを誇る、一大エンタテインメント作品だ。昨年の7月に発表されて以降、フルダイブシステム――電脳世界で現実とそん色なく身体を動かし、五感を得ることができる仕組み――を最大限に活かした夢のゲームは、日本中のゲーマーを魅了した。


 俺、小鳥遊たかなしこうは、今まさに、かつてのゲーマー達が夢に見ただろうそんなフルダイブ型のゲームに、ログインしたところだった。


 晴れ渡る空。澄んだ空気。背後にある噴水が、水を叩く音。そして、人々の活気ある声。それらすべてが五感を通して伝わって来る。これらが現実のものではなく、機械が作り出したまぼろしだというのだから驚きだ。


「う~ん……。この感じ、久しぶりだなぁ」


 俺が今いるのは『ファーストの町』。その噴水広場だった。広場は円形になっていて、ぐるりと町を一望することができる。


 つい先ほど学費が安い公立高校への進学が無事に決まった俺にとって、半年ぶりとなるログイン。間違いなくゲームの腕はなまってると思う。操作感を取り戻すためにもその場で軽くストレッチをしながら、俺は久しぶりのファーストの町を見渡した。


 色とりどりの屋根が所狭しに並んでいて、町を彩っている。建築様式は、ファンタジーの王道とも言える中世ヨーロッパ風ってやつだと思う。白や灰色、黄色っぽいものまで。石と木材とで組まれた軒先のきさきや壁が、異国情緒のある景色を生み出していた。


 そんな「ザ・ファンタジー!」という町並みを行き交う人々の種族も、様々だ。人間はもちろん、エルフ、ドワーフ、獣人を始めとした定番種族。珍しいものだと『TEC《テック》』と呼ばれる、全身が機械の人間も存在する。


キャラクリキャラクタークリエイトの時点で大まかに10種類。そこからさらに細部の調整。ロマンしかない……!」


 かくいう俺……キャラクターネーム『斥候せっこう』も、見た目は妥協しなかった。なるべく格好良く。現実では普通(だと信じている)な見た目を、可能な限り盛る。けど、あくまでも黒髪黒目は外せないのは日本人としてのさがなのかも。目元、鼻の高さ、口元、顔の骨格。それらをすべて、丸一日かけて作り上げた。


「でも、手足の長さとか身長とかは、出来るだけ同じにしないと、なのがな~……」


 俺は、現実と全く変わらない長さ……主に、短足を見ながらため息をつく。アバター・キャラを動かす時、俺のようにフルダイブ型ゲーム機で脳波を読み取るものと、コントローラーを使用するものがある。人によって向き不向きや趣味嗜好しこうがあるんだろうけど、俺はもっぱら脳波を読み取って動かしたい人間だった。


(折角フルダイブ型ゲーム機があるのに、従来のコントローラー操作をするなんてもったいないもんね)


 でも、脳波を読み取ってキャラの手足を動かす時、現実と差異があると、どうしても動きがぎこちなくなってしまう。届くと思った物に手が届かなかったり、逆に思ったよりも腕が長くて指をぶつけてしまったり。手足の長さを盛ったゲームでの操作感に慣れ過ぎると、今度は現実で動きがちぐはぐになったりもする。だからアンリアルでは、見た目以外の骨格の比率などはきちんと把握したうえで、キャラを作成することが推奨されていた。


「その点、コントローラー操作ならネカマなんかも出来て、キャラクリの幅も広がるんだけど……おっと」


 ストレッチを終えて、ようやくキャラの操作感が戻ってきたころ。俺の腰にささやかな衝撃があった。なにごとかと見てみれば、そこには、何とも可愛い妖精が居た。……いや、比喩ひゆじゃない。背中からは根を生やした小さな少女が、俺の腰に抱き着いていたのだ。


 腰まで届こうかという長い髪はやや青みがかった銀色。そのきれいな髪をかき分けるように、透明な羽が2対2枚、計4枚のぞいている。俺の身長が170㎝ちょっとなのに対して、この妖精は胸元くらいまでの身長しかない。120㎝あるかないかじゃないかな。


「ん」


 鼻から吐息を漏らして俺を見上げるその瞳は、あわい青色。まぶたはどこか重そうで、眠そうに見える。けど、これが彼女の平常運転だ。はっきりとした目鼻立ちは西洋人を思わせ、身にまとう服はデフォルト設定されているのだろう白いワンピース。白銀の髪と白い肌も相まって、どこか神々しい雰囲気をまとっていた。


 そんな、可憐かれんで可愛い妖精の名前は『フィー』。高性能サポートAIである彼女をガチャで引き当てたこと。それこそが、俺の人生における最大の幸運の1つだと言えると思う。


「半年ぶり、フィー」

「ん」


 胸元から俺を見上げて、表情を和らげるフィー。その姿はとっても可愛い。でも……。


「……ところで、フィー? 俺、まだフィーを呼び出してないんだけど?」


 通常、サポートAIキャラは見えないようにデータ化され、透明化されている。そして、呼び出さなければ出てこない。しかし、このフィーという妖精は、時折……いや、かなりの頻度でこうして勝手に出現することがあった。多分、高性能すぎるAIのバグか、フィーというキャラクターに設定されている欠点なんだと思う。


「……ん」


 俺の指摘に、すねたように顔を伏せるフィー。そのまま、俺の服にぐりぐりと顔をうずめてくる。


 半年間、会えなくて寂しかった。そう言いたげな仕草の1つ1つがあざとくて……、うん、可愛い。運営が意図的に組んだプログラムの動きなんだろうけど、それにしたって可愛い。こんなことをされたら、たとえ愛する我が家を燃やされようとも許してしまう自信がある。……いや、さすがにそれは無いか。まぁ、それはそれとして、勝手に出てきたことくらいは余裕で許せる。


「うちの妖精は今日も可愛いなぁ~」

「ん」


 サラサラした指通りの銀髪をしばらく撫でてあげると、ようやくフィーはぐりぐり攻撃を止めてくれた。そして、腰に抱き着いたまま青い瞳で俺を見上げてくる。その目は、「これからどうするの?」と言外に語っていた。


「それじゃあフィー。今から肩慣らしにこのダンジョンに行くんだけど、良いかな? あそこのラスボス、近接白兵系だったはずから良い肩慣らしになると思うんだ」


 俺の問いに、フィーはしばらく何かを考えるように眠そうまぶたをパチパチとさせる。多分、現在進行形で俺が示したダンジョンの情報を調べてくれているのだろう。そして、お気に召してくれたのか、コクリと頷いた。


「よし! それじゃ、行こう! あと、町中だと目立つから透明化してくれると助かるんだけど……」


 運営が時間をかけて作ったのだろうフィーは、恐ろしく見た目が整っている。それゆえに、目立つ。今だって、町行く人多たちが物珍しげにフィーを見ている。俺自身あまり目立ちたくないし、フィー自身にも目立って欲しくない俺としては、出来れば町中で彼女を連れ歩くことは避けたい。


「お願いします、フィーさん!」

「んー……」


 両手を合わせた俺を、青く透き通った瞳でじっと俺を見てくるフィー。眠そうなまぶたに上目遣いということもあって、なんとなく糾弾きゅうだんされているような気がしなくもない。いや、実際、抗議してるのかもしれないんだけど。


「だ、大丈夫! 町を出てあんまり人が居なくなったら、出てきていいから。だから、お願いします!」


 そう言って頭を下げてお願いをすると、小さくため息を吐いたフィーはようやく姿を消してくれた。


(ほんと、どこまでも人間臭いAIだよな~……)


 この後、各種装備とアイテムをそろえて、俺は現在アンリアルで公開されている中で、最も推奨レベルが高く、しかもモノ好きしか挑戦しないダンジョン……。いわゆる、エンドコンテンツの攻略へと向かうのだった。

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