第16話 煌びやかな舞踏会
そして、皆が注目する舞踏会の日が訪れた。
その日は一日学校の授業は休みで、一年生から三年生まで全員が参加をする。
有力な貴族の令嬢や、豪族のご子息、宮廷騎士団団長の息子や、有力な側近の娘。
この学園に通えるのは皆、由緒正しき家系かつ将来有望な若者ばかりのため、そんな男女がダンスを踊る舞踏会など、将来を決めると言っても過言ではない。
女子寮では、髪を結い、ドレスを着て、ストッキングにヒールを履き、慌ただしくめかしこむ女子たちの姿。
むせかえるような化粧や香水の香りが廊下にも充満している。
男子寮では、髪をきっちりと分けて固めて、白い手袋をつけ背広を身につけた男子たちが、そわそわしながら鏡の前で支度をしている。
一緒に行くと約束をしていたリリアとレベッカは、はやる胸を押さえながら、舞踏会が開かれる学園の大広間へと向かった。
「私たち一年生は初めての舞踏会ですから、緊張しますね……!」
リリアはピンク色の髪をハーフアップに編み込み、金のバレッタをつけている。
そして、レベッカの作ったラベンダー色のドレスを着込んでいる。
(やっぱり、とっても似合ってる……!めちゃくちゃ可愛い!
今日の主役はヒロインのあなたよ、リリア!)
レベッカは自分の縫合したドレスがイメージとぴったりなことに喜んでいた。
「すごく似合ってるから、自信持ってくださいまし、リリア様!」
「ふふ、レベッカ様のおかげです」
ラベンダーのドレスはどうやらリリアも気に入っているようだ。
胸元のスパンコールを見ながら、嬉しそうに微笑んでいる。
「レベッカ様のドレスもとっても素敵ですよ」
リリアの言葉に、レベッカも自分のまとうドレスを見下ろす。
赤いロングヘアーに、キツめのしっかりとした顔立ちの自分も、クロードと同じブルベ冬だ。
淡い色合いではなく、はっきりした色が似合う。
そして、骨格ウェーブなリリアと違い、適度に筋肉がありメリハリのある女性らしい体つきの骨格ストレートのため、ふんわりしたAラインではなく、ピタッと体のラインを見せるマーメイドドレスにした。
くるぶしから広がった裾は、名前通り人魚のようだ。
露出はしていないがタイトで、セクシーでシックな大人っぽい雰囲気を目指したのだ。
舞踏会の入り口の扉の前には、背筋を伸ばしスーツを着たドアマンが立っている。
「お名前を頂戴してもよろしいですか」
招待された学園の令嬢でないと入ることも許されない、年に一度の秘密の舞踏会。
「リリア・ルーベルトです」
「レベッカ・エイブラムよ」
順番に名前を告げると、相手は小さく会釈をする。
「ルーベルト嬢、エイブラム嬢、お待ちしておりました。それでは楽しい夜を」
黒い背広に白い手袋をしたドアマンは、そう言うと重厚な扉を開いた。
その先は、目眩がするほどまばゆい世界が広がっていた。
高い天井には豪奢なシャンデリアが輝き、壁側で正装をした楽器奏者がバイオリン、チェロ、ハープの演奏をしている。
円卓にはシャンパングラスや、色とりどりのアラカルト、スイーツが置かれており、着飾った男女は皆各々談笑しながらグラスを手に持っている。
そして大広間の中心では、パートナーとなった男女が、響き渡る生演奏に合わせて、ゆったりと踊っている。
ワルツの音に合わせてくるくると回り、女子のカラフルなドレスが右に左へ行き来する様は、とても優雅な世界だ。
レベッカは、シンデレラのアニメや中世ヨーロッパの宮殿を題材にした映画でしか見たことが無いような景色に、息を呑んでしまった。
「す、すごいですね…!」
リリアと目を見合わせて感嘆の声をあげてしまう。
中央で踊っているのは、どうやら三年生たち上級生のようだ。
もうすでに何年もパートナーをしている、おそらく恋人同士の男女なのだろう。
リズムよく息のあったダンスがとても美しい。
実際、見覚えのあるクラスメイトの一年生たちは、壁際でグラスを持ちながら、上級生たちを眺めている人が多かった。
チラチラと、お目当ての女子を誘いたいと気を伺っている男子と、誘って欲しいとうつむき、もじもじしている女子の、水面下の駆け引きが行われている。
その時、入り口のあたりで、歓声が上がった。
レベッカが振り向くと、入り口の扉が開き、機が熟し一番盛り上がっている舞踏会へ、二人の青年が足を踏み入れたところだった。
一人は、金髪を靡かせ、爽やかな笑みを浮かべる、ユリウス・テイラー皇太子。
そしてもう一人は、銀髪にダークネイビーのタキシードを着た、冷徹公爵こと、クロード・ライネル公爵だ。
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