ニートの無為な日々の果て

@toku_aki

第1話

 私は働いたことがない、いわゆるニートというやつだ


 でも、それももうすぐ終わる

 今は34歳、35歳以降は、世間ではニートではなく、無職という部類に分けられてしまう


 当然、働いたほうがいいのはわかっている

 むしろ、これだけ膨大な時間があるのだから、働く選択肢を選ばなかったほうが変だ


 バイトをしようと決心したのも一度や二度ではない

 実際に応募の出ている店の前まで行ったことがある

 何度も通い続けたが結局応募をやめてしまうのだ


 理由は簡単、怖いから

 自分なんかが働いて、他人に迷惑をかけたらどうしようと常に考えてしまう

 私なんかが働くよりも、もっとふさわしい人はいるはずだ

 そう考えると、辞めといた方がみんなのためとなってしまう

 誰にも迷惑をかけない仕事なんて、この世にはない


 父は最近実家に帰ってしまった

 今は私と母の二人暮らしだ


 お金はよくわからない

 年金とか父の退職金とかあるみたいだが、よくわからない

 母はパートしているので、あまり裕福ではないと思う


 母とは、不仲である

 一つ屋根の下に住んでいるのだから、嫌でも目に入ってしまう

 向こうも私に言いたいことがあるのだろうが、私も言いたいことはたくさんある

 世間的には私がわるいことなど重々承知だが、それでも、親なのだから、しょうがないだろうと思ってしまう

 親が高齢になったら困る

 そんなことはわかっている

 でも、そんなこと言っても動けずにいる


 私もできるだけの家事をしている

 とはいえ、料理をしたりはできない

 できるのは、掃除と自分が食べる買い物のみ





 今朝、目が覚めると、家の中が静まり返っていた

 当然、親にも用事くらいある

 どうせ買い物にでも行ったのだろう

 そう思い、私は部屋の中のゲームを起動した


 ただ一人の中学時代の友人は、ゲーム動画を上げてみてはと言っていたが、あんなものは編集9割、素材が1割だ

 実力のない自分には無理だ

 そもそも、恥ずかしい

 世間に私はニートですってアピールしているみたいだ

 やりたくもない


 お昼になり、お腹がすいてきた

 いつもどおり、納豆ごはんを食べる

 近くのスーパーで買ったものだ

 だが、親の金で生活している身分、贅沢はできない


 いや、お金の心配もさることながら、本当の原因はそれだけではない

 不健康になりたいのだ

 病気になり、はやく世界からドロップアウトしたい

 その気持ちで、今日も必要最低限の食事だけを貪る

 

 また、ご飯を食べ、ゲームをしてたら、眠くなった

 ゲームを辞めて昼寝をしたら、夜だ

 やけに静かである

 ここで、疑問が浮かぶ

 母がいないのだ


 これまで、夜になっても母が帰ってこなかったことはなかった

 電話をかけてみる

 反応がない


 冷蔵庫の中から昨日買った卵を取り出し、考える

 頭が回らない

 ゲームの自動レベル上げのために、コントローラーをゴムで縛り上げ、今日は寝ることにする

 


 朝になるが、やはり静かである

 ここで、私はようやく悟る

 何かが起きている

 母が一日家を空けることなどなかったことだ


 ふと、頭に一つの可能性が浮かぶ

 私がおいていかれた可能性だ

 

 不安で潰されそうになる

 最悪だ


 それでも習慣というものは恐ろしい

 いつもどおり、ゲームを始める

 自動レベル上げは途中で途絶えることなく、主人公を凄まじいレベルまで強くしていた

 これなら、高難易度ステージもクリアできるだろう


 ただ、不安でどうもゲームに集中できない

 なんとかクリアはできたが、どうもモヤモヤする


 しょうがなく、私の携帯電話を取り出し、母に電話する

 コールはするが、でない

 

 不安は増すが、どうしようもない

 ふと、私の財布を取り出す

 3000円はある


 一日に必要なものは納豆、卵、少しの野菜だけ


 これなら1ヶ月は持つ

 

 大丈夫、なんとかなる

 自分に言い聞かせ、今日は早めにベッドで横になる


 夜、明らかな異常事態だ

 異常に静まり返った室内


 やばい

 捨てられた?


 不安が心を締め付ける


 だが、動けない

 動けないのだ


 できることは、母に電話するだけ


 それでも電話には出てくれない


 私は冷蔵庫の中を見て、不安になりながら夜を過ごす


 それから、2日経った


 私は、ひたすら家で待ち続けた

 電話は最初の日にかけた以降、かけていない

 コール音が怖かったのだ


 ただただ待つだけの日

 バイトに応募すればよかっただとか後悔だけがつのる


 ただ、怖くてベッドの上で布団の中で目を瞑る


 ゲームもできない

 したくもない

 ただ、怖いのだ


 




 ふと、ガチャッという玄関が開く音がした


 どうやら帰ってきたようだ


 


 母は、体調がわるく、病院で検査したら、そのまま入院になったらしい

 電話はよくわからない

 たぶん、それどころではなかったのだろう


 私の心配など毛頭していなかったそうだ

 当然だ

 私は34歳なのだから


 母は私がその気になれば生活できると思っていた

 私はもう、何もできない人間なのに

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