75 決闘の勝利は?(ゴロヨ副団長補佐視点)

 魔法騎士団の大訓練場は、魔法戦闘の訓練に特化して設計されている。この場所は強力な魔法が使われることを前提として作られており、その構造と素材はどんな激しい魔法の使用にも耐えられるようになっていた。


 大訓練場の壁や床は特殊な魔法吸収素材で覆われており、炎や風などの強力な魔法エネルギーを受け止め、安全に分散させる機能を持っている。これにより、騎士たちは全力で魔法を使っても、大訓練場を破壊する心配はない。


 さらに、大訓練場には魔法エネルギーを調節するための装置が備え付けられており、戦闘の激しさに応じて自動的に環境を調整する。これにより、騎士たちは自分たちの魔法技術を限界まで引き出し、実戦に近い状況で訓練を行うことができた。


 

 決闘の日がついに訪れた。俺は大訓練場の中央に立ち、対面するアルドリックを見据える。彼の目は炎のように燃えていた。周囲の騎士団員たちのざわめきは耳に届かない。全ての感覚がこの戦いに集中していた。


 アルドリックは火魔法の使い手だ。彼の手が動くと、周囲の空気が熱く揺れた。突然、彼の掌から炎が生まれ、ひとつの巨大な火の球となって俺に向かって襲いかかる。その炎は赤と橙が混じり合い、まるで生きているかのようにうごめいていた。


 瞬時に判断し、俺は風魔法を発動させる。両手を前に突き出し、強力な風を起こした。風が炎を包み込み、それをコントロールする。炎はまるで風の流れに乗った葉のように、軌道を変え大訓練場の壁へと吹き飛ばされた。


 激突の瞬間、炎は壁に打ち付けられ、轟音と共に爆発した。火花が四方に散り、熱波が観客席にまで届く。しかし、観客席にいたのは俺たちの同僚、魔法騎士たちだ。彼らは悲鳴をあげる代わりに、戦いの激しさに驚きつつも、興奮に満ちた声援を送っていた。


 その声援は俺にも力を与えた。アルドリックの火魔法の力を目の当たりにしても、恐れることはなかった。この戦いは、ただの力の見せ合いではない。俺の風魔法が、彼の火魔法に対抗できることを示すための戦いだ。



 風が炎に触れると、それはまるで生き物のように動き、炎を包み込んで制御する。炎は徐々に力を失い、俺はそのエネルギーを自分のものに変えた。炎が風に呑み込まれその形を変え、巨大な風の刃となってアルドリックに向かっていく。


 炎と風が交じり合い、戦いは一層激しさを増した。アルドリックの驚きの表情が見えたが、俺は気にせず攻撃を続ける。風の刃が彼に迫り、彼は慌てて炎の盾を作り出し、それを防ぐ。しかし、俺の攻撃は次々と続き、彼の防御は徐々に崩れていった。


 この一連の動きは、まるで舞踏のように優雅で、同時に破壊的な力を秘めていた。俺とアルドリック、二人の魔法騎士の力と意志がぶつかり合い、大訓練場はそのエネルギーで満たされた。



「こんなはずでは…!」アルドリックが驚きの声を上げる。俺の風魔法が彼の想定を超えていたのだ。


 戦いはピークに達しアルドリックは炎を纏った火の鞭を生み出し、俺に向かって振り下ろす。俺はすばやく身をかわし、風を操って炎の鞭をかき乱す。炎と風が絡み合い、火花を散らした。


 次の瞬間、アルドリックは地面を叩き、さらに炎の壁を生み出した。しかし俺は風を起こし、その壁を突き破り、アルドリックに迫る。彼は俺の動きに合わせて炎の竜巻を巻き起こし、俺の進路を阻もうとした。俺は風を更に強くし、竜巻の中心へと突進した。


 炎と風が激しくぶつかり合い、爆発的な衝撃が周囲に響く。しかし、俺はその中を駆け抜け、アルドリックに迫った。アルドリックは最後の力を振り絞り、巨大な炎の塊を俺に向けて放った。この瞬間、俺は全ての力を込めて風を起こし、その炎を跳ね返した。強烈な突風が炎を彼に押し戻し、アルドリックはそれを避けきれずに地に倒れた。


 俺は息を整えながら、彼の状態を確認した。アルドリックは意識はあるものの、炎による火傷と打撲を負っていた。彼は苦痛に顔をゆがめながらも、俺の勝利を認めた。大訓練場は静寂に包まれ、次の瞬間、歓声が沸き起こったのだった。


 決闘の後、若い平民出身の騎士が近づいてきて、「ゴロヨ副団長補佐の戦い方、本当に凄かったです! 僕もあなたみたいに強くなりたいです!」と言ってくれた。その言葉には、深い感慨があった。俺はただ自分の信じる道を歩んだだけだが、それが他の平民出身の騎士たちに希望を与えていることを実感した。


 騎士団の集会では、以前はあまり関わりのなかった貴族出身の騎士たちが、俺に対して敬意を示すようになった。彼らは俺の戦略と勇気を称賛し、一部の騎士は「ゴロヨ、お前の実力には感服したよ」と声をかけてきた。


 この変化に、俺は内心で少し驚いていた。自分の実力が認められるのは嬉しいが、それ以上に、平民と貴族の間の壁が少しでも低くなったことが、俺にとっての真の勝利だった。平民出身の騎士たちとの絆もより深まったことを感じた。一緒に訓練をしているとき、彼らはよく俺にアドバイスを求めてくるようになったのだ。



☆彡 ★彡



 ある日、彼らが俺を囲んで、「ゴロヨ副団長補佐が勝ったおかげで、僕たちにもチャンスがあると感じます」と話してくれた。

 

 俺は彼らに、「俺たちは皆、自分の力で道を切り開くことができる」と励ましの言葉をかけた。この瞬間、俺はただの平民出身の騎士ではなく、彼らにとっての希望の象徴となっていることを実感した。これこそナサニエルが望んだ『新しい風』なのだった。


 一方、戦いに敗れたアルドリックは・・・・・・

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