46 既にナサニエルが賄賂送ってたのか!(ブレイン視点)

 ゴロヨ小隊長はニヤリと笑うと、その金をポケットにねじ込んだ。


(ふっ。やはり金の力は偉大だな。さて、どうなるか高見の見物だねぇ)


 明日から、僕が指揮する第8小隊の隊員たちに向けて、魔法の指導と訓練を開始することにした。貴族と平民が共同使用する広い訓練場に皆が集まるよう、班長三人に詳しい指示を伝える。僕は火魔法の使い手で、かなり膨大な魔力量があると自負している。明日は僕の魔法の力を見せつけてやろうと思っていた。


 

 翌日になってみると、誰ひとり訓練場に姿を現さない。代わりに出くわしたのは以前の部下たちで、いずれも貴族の子息たちだった。


「ブレイン魔法騎士団副団長補佐殿! 先刻、第8小隊と第9小隊の者たちが、魔の森に実戦訓練を兼ねた合同討伐に向かいましたよ。なぜ、こんなところに第9小隊長にあなたがいるんです?」


(なんだ、その言い方は? 『前』とか『新たに就任した』とか、いちいち嫌みなんだよ)


「やはり、第8小隊の奴らが言っていたことは本当だったようですね。ブレイン小隊長はさぼる気満々で、仕事をする気もなさそうだと、既に貴族寮にまで噂が広まっていますよ」


「あいつらに騙されたんだ。第8小隊の班長三人に、ここに集合するよう指示しておいたのに、僕を置いて実戦訓練に行ったのさ。なんて、酷いやつらだ」


「まさか、班長三人すら管理できないのですか? そんなんで、よく魔法騎士団副団長補佐なんてやっていましたね。呆れたな。早速、部下から総スカンなんて、指導力のなさと人望のなさが証明されたようなものですね」


「つっ・・・・・・僕の勘違いだったかな。そうだよ、これはちょっとした手違いだった。はっはっはっは」


「だったら、もっとやばいでしょう。自分のスケジュール管理もできていないなんてあり得ない」


「やかましいわ! どっちにしても、僕を悪く言いたいだけなのだろう? 僕が美しいからって嫉妬するのは醜いよねぇ」


「騎士団のなかで美醜なんて関係ないです。それに、ブレイン魔法騎士団副団長補佐殿よりナサニエルのほうが、容姿は上でしょう」


「なんだと! 僕と鏡に謝れ! お前らの目は節穴だな。僕を誰だと思っているんだよっつ」


「グラフトン侯爵家のパーティでグラフトン侯爵夫妻を怒らしたのは貴族の間では有名ですよ。自分はブレイド魔法騎士団副団長補佐殿を、虎の尾を踏んだ愚か者だと認識しております」


 今までペコペコしていた貴族の魔法騎士たちは、権力者グラフトン侯爵の機嫌を損ねたを僕を、見下しても安全と思ったようだ。


(くっそ! 腹が立つ)



☆彡 ★彡



 僕は急いで魔の森に向かった。魔の森は、厚い樹冠によって日光が遮られ、地面は暗く湿った感触が漂っていた。木々は互いに密集し、根っこが地表を覆い尽くしている。進むほどに藪葉や蔦が絡まり、進路を見失いそうだ。やがて、第8小隊と第9小隊の隊員たちの笑い声を森の中ほどで聞きつけそっと近づく。


「朝も言ったけどよぉ、ブレインの奴は許せないよ。俺に金を握らせてナサニエルをハブらそうとしたんだぜ? あのナサニエルをだぞ?」


 この声はゴロヨ小隊長だな。


「だから、俺はあいつの命令を皆に伝えなかったよ。魔獣の魔石から作った貴重なポーションを、ナサニエルは惜しげもなく各小隊に分けてくれている。ナサニエルを裏切る奴なんてよっぽどだよ」


「そうさ。ナサニエルこそ魔法騎士団の幹部に相応しいよ」


 後の声は第8小隊の班長たちの声か。僕はその会話を聞いて自分の愚かさに頭を抱えた。


(すでにナサニエルはみんなに賄賂を配っていたのか。なんて狡猾な男だ! こいつらはグルなんだ。寄ってたかって、僕の悪口を言って笑っていたのか)


 茂みの中に潜んでいた僕は、そっと音がしたのに気づき振り返ると、真後ろに極めて凶暴で攻撃的な魔獣ブラッドコイワが迫っていたのだった。


(うわぁあああーー!!)

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