38 グラフトン侯爵家のパーティ

 今日はナサニエル様にエスコートしてもらい、グラフトン侯爵家のパーティに出る。まだ学園に通っている私は、夜中まで開催する夜会や舞踏会に正式に参加することはできない。けれど、昼下がりから行われるパーティなら21時にはお開きになる。だから、安心して参加することができるのよ。


 ナサニエル様の夜会服には私の赤い髪と瞳を反映させたい。黒の夜会服に暗紅のボウタイとポケットチーフをしてもらい、もちろん私はナサニエル様の瞳の色に包まれる。エメラルドグリーンとターコイズブルーをバランス良く取り込んだドレスに、エメラルドとサファイアのネックレスも忘れない。


 今日のドレスはナサニエル様に贈っていただいたものよ。魔法省に勤務していた頃に貯めたお金で買ってくださった。嬉しいけれど、申し訳ないと思う。


「あまり、ナサニエル様にお金を使わせたくないわ」


「いや、デリア嬢に使うために私は働いていますから。それに、食事はグラフトン侯爵家でいただいていますし、夜会服や普段着などもグラフトン侯爵夫人に仕立てていただいているので、正直お金を使うところがありません」


「だって、それは当然だわ。ナサニエル様の着る服を選ぶのがお母様の趣味になっているし、私もそれは同じですもの。だって、何を着ても似合いますし、世界でだれより美しいし……世界の至宝なのですわ」


「世界の至宝。褒めすぎですね。最初はなんのことかわかりませんでした」


「ナサニエル様が世界の至宝なのよ。あぁ、どうしたらそんなに綺麗に生まれてこれたのかしら?」


「それを言うなら、デリア嬢は女神様でしょう? いや、天使かな」


私たちはお互いが好きすぎてなにもかもが素敵に見えた。そっとナサニエル様の腕に手を添えて、パーティ会場になっている大広間に向かう。


 今日は大商人の夫妻も何組か招いており、ナサニエル様が売約済みであることを知らしめようと思っているわ。


(世界の至宝は誰にも渡さないんだから)


 裁判所でナサニエル様に声をかけた夫人たちは、私がナサニエル様にエスコートされて、大広間に姿を現したら動揺していた。


「まさかグラフトン侯爵家のご令嬢と婚約するわけじゃないわよね。汚名にまみれた家柄の方がそんなわけ……」


「ナサニエル様は魔法騎士団に入りましたのよ。そこで手柄を立て、国王陛下から叙爵すること目指しているのですわ。いずれ、私たちは婚約するのです」


 私はその婦人たちの前で高らかに宣言した。


「ナサニエル様が高位貴族に養子に入り、そこからグラフトン侯爵家に婿いりすればよろしかったのに。大昔からそんなことはよくあることでしたわよ」


「いや、そういうのは私の性分ではないので」


 ナサニエル様は当然のようにおっしゃった。


(そうよ。私の愛する方はこんなにも尊い志をもっているのよ!)


 感心した夫人がたが、顔を輝かせて口々に賞賛してくださった。けれど、そのなかにひとりの男性が拍手をしながこちらに向かってきたわ。


「ブラボー。実に素晴らしいですねぇーー。僕はそのように男気のあるナサニエル様を尊敬しますよ。敢えていばらの道を歩むなんて、実に気高くて美しいですねぇ」


 長い黒髪をしばることもなく、手でかきあげる仕草を何度もする。前髪も目にかかりそうで気になってしまう。


「デリア嬢にナサニエル様。私はターヴィル伯爵家のブレインと申します。仲良くしていただけると嬉しいですねぇ。私はあのバッカスとは遠い親戚でして、ナサニエル様が助けてくださって感謝しているのですよ」


 にこやかに話しかけてきてくれたブレイン卿は好意的で、バッカスの親戚とは思えないほど常識的に見えた。


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