6 こんなはずじゃなかった(ナタリー視点)
「ナタリー、自分の行動に責任を持ちなさい。ヴァーノン君を引き留めて何を言うつもりだい? 言うべき事はひとつしかないはずだ。さぁ、言いなさい」
「わっ、私には婚約者になる資格はありません。でも、ヴァーノン様の妻になりたいです! お父様、クラーク様なんかと結婚したくない! ヴァーノン様の方が良い! お願い、お母様。私が馬鹿でした。勘当されるクラーク様なんて嫌よぉおおお」
私は両親に必死で懇願したけれど、ヴァーノン様は私の言葉で察したようだ。
「すでに他の男性となにかあったようですね? 残念ですよ、さようなら」
「幸せになってくださいね」と、にこやかに微笑んだヴァーノン様の眼差しは穏やかで優しい。
この方は完璧だ。容姿も性格も、仕事でも大成功をおさめている素晴らしい男性なのに! こんな素敵な男性を逃すなんて・・・・・・嫌よ、いやぁああーー!!
ヴァーノン様にすがろうと手を伸ばした瞬間、お母様の水魔法が作動した。私の頭上から、私の身体全体にまるでバケツをひっくり返したような水が降りかかる。
「頭を冷やしなさい! 今更、ヴァーノン様と婚約できるわけがないでしょう? クラーク様と添い遂げるしか道は無いのよ。グラフトン侯爵夫人は国王陛下が娘のように可愛がっている姪御様です。その愛娘のデリア様に喧嘩を売ったナタリーは、最後まで責任を取らなければならないのよ」
お母様は私を諭すけれど、諦めるなんてできない。
「お母様、お願い。私が悪かったです、反省しているの。だから、クラーク様と結婚なんかさせないで。お願いよ」
「いい加減にしないか! ナタリーのこの不祥事でアントワーヌの縁談まで壊れてしまったのだぞ!」
「え? お姉様の?」
アントワーヌお姉様が、顔をこわばらせながらゆっくりとサロンに入って来た。
「そうよ。三ヶ月後にテランス侯爵家のアンドレ様に嫁ぐはずだったのに、アンドレ様から婚約破棄されたのよ。グラフトン侯爵家のデリア様の婚約者を奪うような、恥知らずの妹を持った私とは結婚できない、と言われました。それなのに、ナタリーだけが幸せになれるはずがないでしょう?」
「そ、そんな。私はアントワーヌお姉様がそんなことになるなんて、少しも思わなかったのよ」
「ナタリー、あなたを一生恨むわよ。私はあなたを本当の妹のように可愛がってあげたわよね? 意地悪なんかしたこともないし、蔑んだこともない。でも、今は大嫌いよ! はやくこの屋敷から出て行って」
ヴァーノン様はとっくにお帰りになられて、アントワーヌお姉様は私より号泣していた。
やがて、セシルお姉様もサロンにいらして涙を流す。
「私もセザンヌ侯爵家のヴィリジール様から婚約破棄されそうよ。もうナタリーのせいで、私達は格上の貴族には嫁げないわ。同じ伯爵家でも難しいでしょうね。グラフトン侯爵家の影響力は絶大よ」
「ご、ごめんなさい。セシルお姉様、ごめんなさい。それほど深く考えていなかったのよ。だって、クラーク様とは簡単に仲良くなれたし、学園の皆は応援してくれたわ」
「その愚かな人たちも無傷では済まされないでしょうね。あなたはもう妹ではないわ。二度と私たちの前に姿を見せないでちょうだい」
こんなことになるなんて思っていなかった。あんなに素敵な男性を婚約者にしてくれるつもりがあったなら、なんでもっと早く教えてくれなかったのよぉおおーー!
その後、私とクラーク様は学園を辞めさせられ、それぞれの家から縁を切られて勘当された。どこに住めば良いのか、どうやってお金を稼いだら良いのか、私はまるでわからないのに・・・・・・
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