壊れた星を喰らう
涼風 弦音
四限目の教室
『確かに空は美しい。壊れた星を喰った鳥は、縛られた。
しかしながら、世界で最も不幸だとあざ笑われた鳥は、幸福そのものだった』
教師の声はしわがれていて最悪だが、俺の中でその文章は何よりも澄んで感じられた。
「『幸福そのものだった』
とあるが、なぜ鳥は幸福を感じたのか。時間取るからノートに書きなさい」
酷く簡単な問題に思えた。しかし、それが正解だとは思わなかった。シャーペンの擦れる音はどこからもしない。教師は、黒板に問八と書いた。
十一時四十五分――こういう空気の時は当てられる。たしか、塾のテキストに似たような問題があった気がするが、それらしい解答にまとめなおさないといけない。
「そろそろ時間切るぞ。あと三十秒な」
押されたストップウォッチは、間抜けな音でカウントを始める。
10……5……1
ノートには取り繕った回答があった。大方の生徒が下を向いて、数人の生徒が当てられた。
つかえながらも考えを言う生徒に、教師は不満顔をしながら板書をした。正しいけれど、捉え切れていない解答だった。
「じゃあ、
「はい。『自分を捕らえた相手に一矢報いることができたから』だと考えました」
段落番号とそれらしい理由を並べれば、教師は満足そうに板書した。赤チョークで書かれたものを生徒は同じ色で写していく。右から左に言葉を流す。
「そういう考え方もあるな。座ってくれ。じゃあ、紙を配るぞ」
制服を整えて座ると、前の女子から水色の紙を渡された。こういういかにも感想文用の紙を見るのは小学校以来だ。高校生になってもこんなことをするのか。
「これから、作者に感想文を書いてもらう。先生はチェックしないで送るから、変なものは書くなよ」
「ええ! 感想文とか何で?」
「こいつ、俺の知り合いなんだよ」
友人思いの教員を意外に思って、机の端に虎柄の狐を描いてみた。まあまあ放送できないレベルだったから、すぐに消えてもらったけど。
「休み時間使ってでもいいから、五限前には国語係が回収してこいよ」
さっきまで何も考えずにいた周りの奴らが一斉にペンを走らせた。
「……不幸に見える幸福」
もっともらしい解答が並んだノートを閉じた。
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