あれはなに?
吉太郎
第1話 とある学芸員の話
いやー、遠路はるばるこんな田舎までご苦労様です。
ここまで来るの大変だったでしょう? 電車は無いしバスも数本だけ、タクシーだって滅多に通りませんからねぇ。まあ、こんなとこに来られる方も滅多に居ませんから、不便だって苦情も出ませんけど。
どうやってこちらまで? ・・・・え、ここまで歩いてこられたんですか? 十キロの道のりを? ははは、若いっていいですねぇ。私なんかちょっとした階段の上り下りでも息が上がりますよ。昔は登山が趣味でね? 海外にも山登りに行ってたんですよ。今ではろくに膝が上がりませんけど・・・。歳は取りたくないですねぇ。
えーっと、すいません、関係無い話をしてしまいました。何せこの資料館に人が来ること自体久しぶりでしてね? 普段話せない分、つい饒舌になってしまいました。
それで、今日は確か・・・。そうそう、雑誌の取材でしたっけ? わざわざこんな田舎の資料館に来て、何をお聞きになりたいんですか?
あー・・・・、『
・・・・・・ああ、これです。この本の、ここ。『異形様』について書かれているでしょう? 童歌とか昔話とかが何編か残ってるんですよ。
え? ええ、その一頁だけですが・・・。はあ、そう言われましても、『異形様』について言及されているのがこの本だけでして・・・。
正直、地元の者もあまり知らないんですよ。その『異形様』について。その本に書かれていること通りなら正に化物なんですが、この地域の年寄りはみんな「神様だ」って言うんです。昔話もね、この本みたいに「突然山から下りてきた化物が人を食い荒らした」ってものから「人の心を奪う」とか、「自分を見た者を呪う」だとか、とにかく色々な類型があるんです。
なんで『異形様』なのか? それはどうやらその化物の見た目が”一定じゃない”からだそうです。一定じゃないっていうのは目撃されるその都度に見た目が微妙に違うそうで、男の子や女の子、鳥、猿、熊なんかの姿で現われたと言います。でも一貫して体が白いことから全て同一の存在だと考えられたそうですね。
・・・・とりあえず、私が知っていることはこんなとこでしょうか。お力になれましたか? ・・・そうですか、それなら良かったです。ええ。
はい? 不可解なこと、ですか? うーん、少なくとも私の周りでそういったことは無いですね。強いて言えば最近ダイエットしているのに体重が減らないことでしょうかね、はは。
・・・・・・・あー、ありましたね、そんなことも。ええ、ええ、すっかり忘れてました。情報に疎いもので、その件に関して聞かれても何も分かりません。
・・・その件は、何か関係があるんですか? ・・・興味本位? そうですか、あまり私以外の住民にその話をされない方が良いですよ? 皆思い出したくないでしょうし、良い気分にはなりませんから。
・・・・あの、そろそろお帰りいただいてもいいですか? そろそろ閉館時間ですから。
いや、もう話せる事はありません。この本も貴方に差し上げますから、ええ、どうぞ。
・・・・一つ、忠告しておきます。貴方も自身の生活のために取材をされているんでしょうが、あまり調べすぎない方が良いと思います。
いえ、深い意味はありません。そのままの意味で私は申しています。
ええ、分かっていただけたのならいいんです。もう大分日が落ちてますから、足下にお気を付けてお帰りくださいね。
ええ、それでは・・・・、さようなら
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