第5話

君が僕の前で倒れた時、生きた心地がしなかった。

靴も履かずに裸足で怪我して血だらけで、服は半ば脱げかけてまるで強姦されたみたいに見えて肝が冷えた。

それでも僕が見えた時、君は安心したように力を抜いて倒れこんできたから慌てて抱き留め、部屋に連れていった。

君は僕の腕の中何も言わずに気を失っていて、頭がパニックになったままベッドに寝かせた。

僕のベッドはまだ幼い君には広く、酷く矮小に見える。

血だらけだった足の裏をタオルで拭い風呂場の桶にぬるま湯をため、それを持っていって清めた。

沁みるはずなのに反応がなく、苦しそうな息をするばかり。

手当てと服を整え、その時初めて君が女の子だと知った。

意識を取り戻さない君。

ここでぼうっとしていては手遅れになってしまう。

僕は挫けそうになる気力を振り絞り救急に連絡を入れた。

あれほど外界が怖くてたまらなかったのに、君を失うかもと思えば、今なら何だって出来そうだ。

名前も知らないから訝しがられたが、どうにか連絡をいれ。

僕は自室をあとにした。

スマホだけズボンの尻ポケットに突っ込み。

その足で近くの交番に駆け込んだ。

ああ、ここに連れてきてくれるのは君の役目だったのだろうに。

でも僕は君を失うわけにはいかないんだ。

その為なら、僕は自分の犯した罪でさえも自白して受け入れよう。



もう、君には会えないだろうとしても。

頭の奥で、君がりっくんと呼ぶのが聞こえた気がした。

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