外に出るためには

「うん……? 君は――」

「どうもですダレンさん」


 非番の日、城に訪れた俺をダレンさんが驚いたように出迎えた。

 それもそのはずで、今言ったように俺は非番……なので城に用がないからこその反応だろうか。


「どうした? 今日は非番と聞いているが」

「あはは……ちょっと暇だったので」


 いや、暇だったからで王城に来るのはどうなんだって話だけど、ダレンさんは苦笑しながら近付いてくる。


「もしかして仕事のしすぎでつい来ちゃったとかじゃないのか? 基本的に非番の兵士も出入り出来るとはいえ、王の間などに行くんじゃないぞ」

「分かってますよ」


 ……それだけで良いんだな分かってたけど。

 ヒラヒラと手を振ってダレンさんは歩いていき、俺もその場から離れるように城の中へ。


「……………」


 思えば、こうして城に入るのは仕事の時くらいなものだ。

 兵士として地味に過ごしてきたとはいえ、積み上げてきた仕事の出来る印象というのは嘘を吐かないらしく、こうして本来居るはずがないとしても特に何かを言われることもない。


(まあ……単に陰が薄いからかもしれないけど)


 それはそれで……ちょっと悲しいか。

 流石に普段着で来るのもどうかと思ったので、兵士の恰好をしているのもあるのかもしれないがそう思うことにしよう!

 本当に誰にも声を掛けられることなく、アリアさんの部屋の前で辿り着いた……やっぱり代わりの人もここには居ないんだよな。


「隊長とか言ってたっけ。いくら兵士でもここはあまりにもやることがなさすぎて、他にやりがいがある場所に転属を申し出るって」


 たぶん俺もアリアさんが居なかったらそうしていたかもしれない。

 ここならサボり放題と言えばそうなのだが、だからって毎日もここで立ったまま過ごすというのは地獄に近いからな。

 そういう意味でも俺がここの仕事をいつまで続けられるのか、それはよく同僚たちの間で話題に出るのだとか。


「……ふぅ、入るか」


 ノックをして中に入ると、いつものようにそこにアリアさんは居た。


「……え?」

「あはは、どうもですアリアさん」


 今日が休みであることは伝えている……だからアリアさんは今日一日、俺に会えないと思っていたはずだ。

 だからこそなのか、アリアさんがすぐに飛び込んできた。


「おっと」

「ローラン君!」


 そうしてしばらく、アリアさんの温もりを感じていた。

 さて、どうして非番であるにも関わらずここに来たのか、それをアリアさんは気になったようで、俺は少し照れながら伝える。


「その……暇を一人で持て余すのもなぁと思い……アリアさんに会いたくなって来ちゃいました」

「……もう、あなたって人は」


 苦笑するアリアさんから離れ、今日もまた買ってきたスイーツをアリアさんに差し出した。

 スイーツを見た瞬間のアリアさんは分かりやすく目の色を変え、最近ではこんな様子を見るだけでも俺自身楽しくなる。


「本当に……本当に外には色んな食べ物があるのね。凄く美味しくて……あぁ夢で溢れてるわ」

「……………」


 スイーツ……だけじゃないんだよアリアさん。

 外にはもっと色んな食べ物があるし、色んな料理だってある……国ごとに特徴も違って……俺だってまだまだ知らない味が沢山ある。


「アリアさん」

「なあに?」


 もちろん他にもたくさん知ってほしいことはある。

 こんな閉鎖的な場所では得られないことが沢山あるんだって、俺はそれをこの人に見てほしいし感じてほしい……だから俺は、たとえ断られるとしてもこの提案をしたかった。


「俺と……外を見てみませんか?」

「外を……それってまた少しだけ見るってこと?」

「いいえ――外の世界で、生きてみませんか?」

「……………」


 まあ、これこそ色々と考える必要のあることだ。

 今すぐこれを実行するわけじゃないし、いくら何でも今まで生きてきたこの国に対してそれは不義理が過ぎる。

 ただ……アリアさんの意見は聞いておきたかった。

 それを実現できるかどうかは確約出来ない……けれど、彼女の願いがあったなら俺は頑張れると思うから。


「私は……」

「……………」

「……正直、外に興味はあるけれどそれくらいね――願望はいつだって浮かんでは消えていく……それだけなの」


 それって……アリアさんは外を求めないってことなのか?

 そう思った俺だけど、アリアさんはこうも言葉を続けた。


「でもそれは一人だったならの話なの。傍にあなたが、ローラン君が居てくれるなら私は今を変えたい。そう思うのは我儘かしら……」


 俺が居たら……その言葉が、最後の一押しを俺にしたように思える。

 幼い頃、この国の理念を聞いたことがある――この国では、民一人一人が大切な存在である。

 その頑張り、努力、そして存在は認められなければならない。

 ならば、アリアさんのしてきたことも認められて然るべきなんじゃないのか?


「アリアさん……俺もアリアさんと外の景色を見たいです。今まで見てきた景色でも、こうして偶然ではありましたが出会ったあなたと一緒に」


 俺がここまで思えるのは……いや、今は良いか。

 取り敢えずこれから何が俺に出来るのか、今度はそれを考えることになりそうだ――幸いに、相談出来そうな相手は居る……会えればだけど。

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