第25話 ウキウキなコユミ Side
有名配信者である私――コユミは、アカネさんと共に拠点を出発しました。
行き先は、新種ドラゴンがいると言われている渓谷ただそこだけ!
もちろん歩きだと時間がかかってしまうので、《白牙狼の眷属》でひとっ飛びしています。
「今回はこれくらいにしておきましょうか。リアルでの用事とか済ませたいですし」
「そうだね」
頃合いになったところで、私達は眷属から降りました。
いかに時の流れが現実より遅いとは言え、これだけ長時間活動するのも疲れるというもの。
リラックスは凄く大事です。
〈もう終わりかぁ~〉
〈今回も色々と面白かった!! ほんとコユミちゃんと狂拳先輩は安定だな!!〉
〈狂拳先輩お疲れやした!!〉
〈コユミちゃん、今日もありがとうなぁ!!〉
「いえいえ、どうもです! 最後まで見て下さって本当に嬉しいです!!」
それから私は、すぐアカネさんへと頭を下げました。
「狂拳さんも、本日の活躍のおかげで同接30万行きました! 本当にいつもありがとうございます!! またこうして一緒にプレイして下さると嬉しいです!!」
「……その事なんだけど、ちょっといいコユミ?」
「……? 狂拳さん?」
アカネさんのテンションは(戦闘中以外)低い方ですが、今のはいつにもまして低かったでした。
不思議に思い顔を上げると、アカネさんが申し訳なさそうな表情をしているようです。
「どうしました、急に?」
「……アンタが私とコラボしたいとかでこうなった訳なんだけど、私が専用チャンネルとか用意していないばかりにアンタのやつを乗っ取っているんじゃないかって思ってさ。ついさっき『コユミと契約してなかったらソロプレイしていた』なんてコメントもあった事だし」
〈あっ……それ俺がさっきコメントしたやつだ……〉
〈というか、ここまで深刻そうに話す狂拳先輩初めて見たぞ……〉
〈それなりに考えていたのかな……今の状況に……〉
リスナーさんがおっしゃる通り、こんなに深刻そうに話すアカネさんは初めて見ます。
いつもはノリノリで敵を血祭りにする、時代を間違えたモンスターなのに……。
「契約した時、コユミは他の配信者から守る為にコラボするって言ったんだけどさ、そういうのは軽く受け流せばいいから別に気にしていないんだよね。だからさ、アンタにこれ以上迷惑になる前にソロになった方が……」
「狂拳さん、あなたは勘違いをしていますよ」
「えっ?」
アカネさんにはさえぎって申し訳ない気持ちがありましたが、それでも言いたくなりました。
ポカンとする彼女に対して、私は自分の想いを伝えようと思います。
「私、ちっとも迷惑になんか思っていませんよ。むしろこうして配信を盛り上げてくれてるからこそ、私は何とか首の皮1枚繋がっているんです。配信者ってのは飽きられるとすぐに人がいなくなりますからね。それにもし狂拳さんがソロになったりチャンネルを作ったりして私の人気が落ちるのでしたら、私はそれまでの配信者だったって事ですよ」
そう、配信ってのはアカネさんが思っているよりも凄く大変なのです。
例え人気を博する配信者であっても、配信したものがつまらないと思われたらすぐにファンが逃げていく……そういう過酷な業界なのです。
多くのファンを抱えている私でも、いつファンが離れてしまうかとヒヤヒヤしたものですよ。
こうしてアカネさんを目撃して一緒に同行するようになって人気が上昇していったのは、私にとっては凄く幸運な事だったと思います。
「まぁ、最初はチャンネルが乗っ取られてるんじゃって思いましたよ? でもそんな事が気にならないくらい、ある考えが芽生えまして」
「ある考え?」
「はい。……狂拳さんと一緒に《クリワイ》をプレイして楽しいって。配信者じゃなく、1人のハンターとして」
これは正直な気持ちです。
何せソロで活動していた頃よりも、ずっと楽しいって思えるのですから。
やっぱりこういうゲームには、一緒にプレイする仲間がいた方がいいですよね。
「狂拳さんはあくまでも非配信者です。それを私が配信で映し、リスナーさんが見ている。ただそれだけなんです。だからこそチャンネルの事なんて気にせず、狂拳さんのやりたい事をやっていただければと思うんですけど」
〈そうそう、俺達は『ただ』狂拳先輩のお姿を見ているだけなんですから〉
〈別に俺らの事は気にしないで、存分に虐殺プレイを楽しんで下せぇ!〉
〈俺、もしも先輩が離れたとしてもコユミちゃんのファンはやめないけどな〉
〈そうだな。こんな可愛くて明るくて強いハンターを見過ごせないって〉
〈俺はVチューバー時代からコユミちゃんが好きだったんだ! ちょっとやそっとじゃファンをやめないぜ!!〉
ああ……ほんとファンの皆さんには優しいです……。
ありがとうございます皆さん……私コユミは今幸せです!!
〈というかアレだよな。狂拳先輩が配信チャンネル作ると思えないから、ソロになったら行方不明になってしまうぞ〉
〈本人はそれでいいかもしれないけど、俺達がなぁ……そうなったら泣いてしまうかも〉
「そうそこ! チャンネル作るの大変なのは分かりますが、もし狂拳さんがソロで活動してしまったら《紅蓮の狂拳》の名が地に堕ちますって! 配信やらないのが見え見えですし!!」
「私は別にいいけど」
「狂拳さんがよくても私達がよくないですって!!」
やっぱり言うと思いましたよ……。
もっとも「バズり? 人気? なにそれおいしいの?」的なストイックさが人気を誇っているので、難しいところですが……。
「……でもそっか。私と同じなんだ」
「えっ、同じ?」
私が聞き返すと、ハッとするように目を逸らすアカネさん。
「いや、私もコユミと一緒にプレイして悪くないというか……ちょっと楽しいかなって思ってさ。多分ソロになったら、かなりつまらなくなるかも」
「……おおお……」
「……何? 変な声出して」
「い、いや……大した事はないんですけど……」
すいません、大した事ありまくりです。
見えましたよ。うっすらとほんのりですが、アカネさんの頬が赤くなったのを!
ツンデレですか!? 少なくともデレてますよね!? デレているアカネさん、めっちゃ可愛いんですけど!!
〈コユミちゃん顔が崩れてるww〉
〈これはキマシか? キマシタワーか?〉
〈てぇてぇですな……〉
おっと、リスナーさんにバレてるみたいですね……。
表情を普通のに戻してっと……うんよし!
「そう言ってくれるなんて嬉しいです。狂拳さんも案外そういうところ感じるんですね」
「別に薄情な人間じゃないやい」
「ハハ、冗談ですって。とりあえずここら辺でお開きにしますか」
「まぁうん」
「という訳で、本日もご視聴ありがとうございました!! またコユミちゃんと狂拳さんの配信を楽しんでいって下さいね!!」
「自分でちゃん付けるんかい」
こうして私はアカネさんと別れ、リアルの世界へと戻る事となりました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう、今日もいい配信になりましたねぇ」
自室に戻った後、私はヘッドギアを外しながら一息を吐きます。
今回の配信も大成功でした……。
リスナーさん方の反応も上々ですし、よくよく見れば登録者数も100万から130万とメキメキと増えてきている。
これはかなりの大勝ちと言っても過言じゃありません。
これは祝杯を挙げるべきですな……ワイン代わりのぶどうジュースを開けときますか。
「これもアカネさんのおかげですね……っと、それよりもツイックスの方を」
私はツイックスの状況を調べようと、すぐにそれを開きました。
まず目に付いたのが流行ワードとも言ってもいい『トレンド』なのですが、そこにはアカネさんが叫んだ『ヒャッハアアアアアア!!』や今回現れた『ヌシのオーク』、そして私がつい言ってしまった『靴を舐めてもいいですか?』が載っています。……そう、載ってしまったんです。
……何であんな事を言ったんでしょうかね、私。
配信者としての癖にしてはヤケにアレですし……もしかして私、そういう願望があったりとか?
「ま、まぁ……アカネさんがそういうのを催促する訳ないですけど……でももし……もしもですよ? アカネさんから『ほらっ、足を舐めなよ』って言われたら……っていや何の妄想してんですか私は……でもそんな状況になったら……わ、私……ウ、ウヒャアアアアアアアアア!!!」
気が付けば、私は1人悶絶して叫んでいました。
そんで隣部屋の住人さんに怒られたので、ペコペコ謝罪しました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます! 第2章はこれにて完結です!
ここから『人物紹介』を経て第3章が始まりますので、どうか楽しんでいって下さい!
「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や応援コメやレビューよろしくお願いします!
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