第20話 拠点に到着

 コユミがオークを仕留めた後、再び私達は森の中を駆けて行った。


「にしてもコユミ、さっきの靴を舐めたいって……」


「あ、あー! 私、配信者をやっているので大げさな台詞を吐く癖があるんですよ! それで急にあんな事を言っちゃいまして! なので『アナタを尊敬しています』というニュアンスで受け取って下さいハイ!!」


〈とか言って、ほんとは舐めたかったんじゃないのかなぁ?〉

〈先輩の靴を舐めるコユミちゃんを想像して、ハァハァしちゃいました〉

〈ハァハァハァハァ……〉

〈やったねコユミちゃん! トレンドに『靴を舐めてもいいですか?』が載ってるよ!!〉


「もうからかわないで下さい……ってえええええ!! トレンドに載っちゃってんですかぁ!!? コユミ痛恨のミスううううううう!!!」


 弁明しているコユミを尻目に、リスナーがからかってくる。


 とりあえず先ほど言ったように、言葉の綾だったという事か。

 実際にやってきたから困るしな。私そんな趣味ないし。


「頭抱える気持ちは分かるけど、そろそろ外に出るみたいだよ」


「そ、そうですか……ならこの事は一旦置いておきましょう……」


 ともあれ、私達の前方に森の外がある。

 その外にたどり着くと、あるものが見えてきたのだ。


「見えてきました、ハンターの拠点です!」


「ほぉ……」


 草原内に建てられた多くのテントと周囲を照らす松明。

 そのテントの密集地の中で、大勢のハンターが行き来しているのが分かる。


 これが拠点というやつらしい。


 拠点では多くのハンター達による休憩、情報交換、物々交換、交流、そしてクラン結成といった事が行われている。


 この《クリワイ》において貨幣の概念はないので、情報と物々の交換は結構重要らしい。

 交換する素材によっては応じられない可能性が非常に高い。


 と、このように拠点の事は事前に知っていたが、こうして実物を見るのは初めてだ。

 私は感心の声を上げながら、それらを見つめていた。


「さてと、最初に何しましょうかねぇ。狂拳さんはどうします?」


「まずオークの肉が食べたいかな。味を知りたい」


「了解! でしたら焚火ポイントがあるはずなので、そこでお肉を焼いてみましょうか!」


 眷属を消滅させた後、コユミが私を拠点へと連れ込む。

 

 拠点内に入ってみてすぐに分かったのだが、行き来するハンターに色々な姿があるようだ。


 オーソドックスに鎧を身に付けた者。

 魔導士のようなローブを身に付けた者。

 忍者のような格好をした者。

 はたまた猫耳と尻尾を付けた女の子までいる。


 ほんとに異世界ファンタジーって感じだ。

 いやそういうコンセプトのVRMMOだから、当たり前っちゃ当たり前だけど。


「おい、見ろよ……」


「えっ、嘘……」


「まさかの本物か……?」


 するとその時、その集団の中からざわめき声が聞こえてくる。


 視線が私に集まっているし、もしかして先ほどの声は私に対してだろうか?

 などと思っていたら、ある男性ハンターがこちらに駆け寄ってきた。


「ちょ、ちょっと!」


「ん?」

  

「間違っていたら悪いっすけど、もしかして今話題の《紅蓮の狂拳》先輩とコユミちゃんっすか!?」

 

「私? ……まぁ、何かネット上じゃそう呼ばれているらしいけど」


「やっぱり本物だ!! すげぇ初めて出会った!!」


「おおマジか!! こんなところに出会えるなんて!!」


「狂拳先輩ぃ!!」


 1人の男性ハンターを皮切りに、続々と私とコユミの周りにハンターが集まってきた。

 男女問わずにだ。


「配信を見てから舎弟になったんすよ!! この間タラスクをノーダメで倒したの、めっちゃ凄くて尊敬しちゃいました!!」


「徒手空拳でドラゴン系を倒すなんてな!! 握手をお願いしまっす!!」


「キャー!! やっと出会えた!! 狂拳先輩、握手して下さーい!!」


「アタシもアタシも!! 狂拳先輩お願いしまーす♡!!」


「は、はぁ……」


 こんなにも握手を求められるとは……しかも男性の口調がおかしいのは気のせいだろうか? 

 女性に至ってはキャーキャー言っているし……。


 これにはコユミもさぞ戸惑って……、


「実は俺、コユミちゃんのファンです!! 握手して下さい!!」


「コユミちゃん可愛いなぁ!! 」


「コユミちゃんの靴舐めていいですか!?」


「も、もう!! そのネタは勘弁して下さいってぇ!! でも握手はオールOKですよぉ!!」


 ……いないな。

 満更でもないどころか嬉しそうな顔をしているし、有名配信者ならこういうのを日常茶飯事かもしれない。


「おいそこの」


「ん?」


 その時、1人の男性ハンターが群衆を割り込みながら現れてきた。

 顔や身体にそれぞれ兜と鎧を身に着けていて、さらに私よりも大柄な体型をしている。


〈おっ、何だ?〉

〈握手タイムを割り込むとはマナー違反だな〉

〈これはもしかして……〉


「あんた、今話題の《紅蓮の狂拳》って呼ばれるハンターだな?」


「何かそう呼ばれているらしいけど……一体何の用?」


 ただならぬ雰囲気を感じて、私はその男性ハンターを睨む。

 これによってか、コユミや周りの群衆が黙って息を呑む。


「用は他でもない。あんたに言いたい事があんだよ」


「何、言ってみなよ」


「実はな……







 どうか俺を殴って下さい!! お願いします!!!」


「………………………………はっ?」


「「「はっ?」」」


〈はっ?〉

〈はい?〉

〈ホワイ?〉


 頭を下げてお願いしてくる男性ハンターに対して、

 私を含めた全員が同じような声を出してしまった。


「実は俺、狂拳先輩の大舎弟でして!! マジで殴られたらどんな威力なのかってずっと気になってたんっすよ!! ほらっ、ここで殴られてもリスポーンされるだけで死にはしないっしょ!? 装備とか落ちても別に気にしないんで、頬にガツンっと本気で殴って下さい!! お願いしまっす!!」


「…………コユミ、この場合どうするの?」


「……こんなの配信では初めてですが、まぁ言われた通り殴ってみては? それで気が済むのでしたら……」


「マジでか……でもまぁ、一発くらいなら……」


「はい!! どうかガツンと一発!! 遠慮しなくていいっすよ!!」


〈てっきり「身の程知らずなハンターが喧嘩を吹っかけてくる」的な展開だと思ったんだが……〉

〈↑俺もそう思ってた〉

〈まさか舎弟にドMがいたとは〉


 自ら頬を向けてくる男性ハンター……やりづれぇ……。


 かと言って、断ったら断ったで色々面倒だしなぁ……。

 一応このハンターの言う通り殴っても死にはないし、現実世界に後遺症は残らないと聞いた事があるし……。

 

 ……仕方ない。

 この際、瓦割りの気分でやっておこうか。相手はあくまで瓦って感じで。


「……スゥ……」


 息を整えて軽くリラックスをする。

 次に構えを取り、目の前の瓦目掛け……、


「フン……!!」


 容赦なく正拳突きを叩き付ける!!



 バゴオオオオオオオオ!!



「アオオオオオオオオオオオオンンン!!!」


 何とも言えない悲鳴を上げながら、男性ハンターが消滅していった。

 ……これっていわゆるワンパンか?


「「「……お、おおおおおおおおおお!!」」」


「迫力すげぇ!! ハンターをワンパンしちゃったよ!!」


「普通、殴っただけで死ぬはずないもんな!!」


「狂拳先輩ヤベェ!!」


「キャー!! 先輩カッコいいい!!」


 ……んー、相手からやれと言われたとはいえ、敵意のないハンター相手だと面白くないなぁ。

 問答無用に襲いかかってくるクリーチャーの方がやり甲斐がある。


 今度こういった事を頼まれたら絶対拒否っておこう。


「てかアイツの装備とかが落ちてるぞ!!」


「おお、それなりの性能じゃん! もーらいっと!!」


「おい、それは俺のもんだぞ!!」


「いや俺だね!!」


「よこせゴラァ!!」


 なお男性ハンターが落とした装備や所持品に対し、群衆が我先にと奪い取ろうとしていた。

 ……何なんだこの人達は……。 


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 殴って下さいと言って来た男性ハンターについてですが、元々はマジでアカネの実力が認められず喧嘩を吹っかけてくる予定でした。

 ですがそれでは面白くないと思い、この展開に至った訳です(笑)。


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