第2章
第16話 朱音は今バイトをしている
「ウーバーフードです。注文の品を取りに来ました」
「ああ、お疲れ様です! 少々お待ち下さい!」
学校の休日。
私はただいまウーバーフードのバイトをしていて、注文された品を取りに牛丼屋に立ち寄っていた。
私は接客が苦手だ。
自分で言うのも何だが結構ぶっきらぼうだし、愛想良さを出すのも上手くない。
その点、ウーバーフードは注文を届けさえすれば文句は言われないし、さらには人によっては置き配が出来るので接触もない。
自転車を漕ぐのも割と好きな方と、私にとっては悪くない仕事だ。
……まぁ、クレームも多々あるのも事実なのだが。
「なぁ知ってるか? 《クリワイ》の《紅蓮の狂拳》」
「もちろんもちろん! 昨日、動画見たんだけどすっごい強いよなぁ!!」
注文品を取りに行っている店員を待っている時だった。
私の同年代であろう男子2人から、そんな会話が聞こえてくる。
「アレ確かバグったせいで武器握れなくて、代わりに徒手空拳最強になったんだろ? それでいてドラゴン系のタラスクを圧勝だなんてヤベェじゃん!」
「しかもタラスクの顔面を剥ぎ取ってさぁ。ツイックスで『顔面破壊ハンター』だなんて言われているんだぜ? マジでその名称を考えた奴、天才だよなぁ」
ホントにな、その人は別の意味で天才だよ。
何故かタラスク戦以来、ツイックスでは私の事が持ちきりになっていて、しかも『顔面破壊ハンター』だなんてあだ名を付けられてしまっている。
そのおっかないと思えばいいのか笑えばいいのか分からないあだ名には、反応に困ったものだ。
なおこれだけの事をしでかしたのだから学校側にもバレているのではと思っていたが、どうもそうではないらしい。
『狂拳先輩カッコイイよねぇ!! アタシ、《クリワイ》買ってあの方に会ってみようかなぁ!』
『私も私も! ハァ……こんなにも同性に惚れるなんて初めてかも……』
『狂拳先輩推せるよね~!!』
私が学校に登校しても、友達は《紅蓮の狂拳》とやらにご執心のようだった。
……正体である私を尻目に。
この事を再び電話をかけてきた喜奈姉さんに聞いたところ、現実とアバターでテンションとかが違っているので、同一人物だって分からないだろうという返答がやってきた。ニチアサの魔法少女かっつーの。
なお姉さんについてはまたもや私を茶化してくるので、この間みたく話の途中で切りました。
ともかく私としては承認欲求なんてないのでどうでもいいのだが、もし狂拳とやらが私だと知ったらクラスメイト達はどんな顔をするのやら。
「お待たせしました! それではよろしくお願いしますね!」
「ああはい、どうも」
注文品がやって来たので、私はそれをバッグに入れてから出発した。
行き先は、3階建てアパートに住む
以前にも届けた事があるので、迷わずすんなりアパートへと到着。
3階の部屋のインターホンを押せば、その家城さんが顔を出してきた。
「ウーバーフードです。ご注文品をお届けに参りました」
「あー、ありがとうございます! 助かりましたぁ!」
「…………」
フワフワとした黒色のショートボブに人懐っこそうな童顔。
そして私より低いその身体つき。
……前から思っていたのだが、どこかコユミに似ているような気がするんだよね。
「ん? どうしました?」
「ああいや……毎度どうも。またのご利用をお待ちしております」
「はい、ご苦労様です!」
お金はキャッシュで取引しているので、注文品の受け渡しだけで終わる。
彼女に一礼してから、私はそのアパートを後にした。
「……まぁ、あの女の子がコユミって訳ないか」
もしそうだとしたら、どんだけ運がいいんだ私は。
だってコユミ、有名配信者だよ? 有名配信者。
そんな子がこの何もない普通な街に住んでいる訳がないし、それなりに高いマンションとか購入していてもおかしくない。
十中八九よく似ている別人のはずだ。うん絶対にそう。
「……そういえば、収益の5割もう振り込んであるんだっけか」
コユミで思い出したが、彼女のDMで「収益振り込みましたのでご確認下さい!」的な報告があったな。
このバイトが終わったら確かめてもらうとしよう。
なんて気軽に思った私は、この時予想していなかった。
口座を確認した瞬間、口から心臓がゲロ出そうになってしまった事を。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第2章開始です。
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