第4話 とある配信者 Side

 朱音アカネが戦闘中に感じたという視線らしきもの。

 当の本人は気のせいだと思っていたが、実は本当に起こっていた事なのである。


 そう、それは彼女がダークリザードと戦闘している時の出来事だった……。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「みなさ~んこんにちです~! 今日もコユミのプレイを楽しんでいって下さいねぇ~!」


〈こんにちでーす!!〉

〈待ってましたー!!〉

〈今日のコユミちゃんも可愛いぞー!!〉

〈今日、初めてコユミの動画に入りました! よろしくです!!〉


「あっ、初めての方ですね! 来ていただいてありがとうございまーす!」


 突然で申し訳ありませんが、私の名は《コユミ》と言います!

 もちろんこれは配信者としてのネームで、本名はちゃんとありますが!


 自慢ではありませんがこの通り配信者をやっておりまして、チャンネル登録者数100万人、同接10万人と、それなりのやり手でもあります!

 本来は個人勢Vチューバーとして活動していますが、今回はアバターで活動出来る《クリワイ》という事で、Vチューバー時と同様の青ショートボブ&白ローブという姿でプレイしています!


 最初上手く行くかなぁと思いましたが、こうして多くのリスナーさんが見てくれるので配信者をやってよかったと思います!

 

 ちなみに《クリーチャーズ・オブ・ワイルド》こと《クリワイ》は配信推奨でして、必要な手順をすればプレイ中でも配信する事が出来るんです。

 私から見て左端には常にコメントが流れていますし、私の姿や様子もヨーツベの動画に映るんですよ!


「さて、今日はこの辺りに発生したというダンジョンに向かおうと思います! すぐそこらしいので歩きで……」


 ――グアアアアアアアアアアア!!


「はわっ!?」


〈何事!?〉

〈今、ガラガラって凄い音したよな?〉

〈戦闘か?〉


「ど、どうやら近くで戦闘が行われているみたいですね! 偵察も兼ねて行ってみようと思います!」


〈偵察とか言っておいて、本当は興味津々なのが丸見えだわな〉

〈何という野次馬精神〉

〈まぁ、気になるっちゃ気になるわな。こんだけ凄まじい音なら強い武器持ってそうだし〉


 音の発生源はかなり近いようなので、私はすぐに草原を駆けて行きました。

 

 これでも《クリワイ》のハンターですので、他の方がどんな実力があるのかというのは興味あります。


 それにこの凄まじい音。

 リスナーさんのコメント通り、かなりの武器を持っているのかもしれません!


「さてと、そろそろ見えてきますかね! 一体どんな戦闘が行われているのか……ってええええ!?」


 やっと発生源に辿り着いた私ですが、それを見て目が飛び出るくらいに驚いてしまいました!


 崩れた岩場の近くには2体のダークリザードがいて、1人のハンターさんに襲いかかっているみたいです。

 ハンターさんは黒い服を着た赤髪の女の子……女の子ですよね? ちょっと男の子っぽいですが……とにかく見る限りですと、武器なし防具なしの裸同然だったのです!!


「死ぬ気ですか、あの人!? いくら何でも裸装備なんてドMもいいとこでしょう!!」 

 

〈ドM〉

〈一応、武器なしでの格闘は出来るらしいけど、武器ありよりめっちゃ威力が低いんだよな〉

〈武器で戦う前提のゲームだしな、この《クリワイ》〉

〈間違いなく初心者。一度ここで死ぬのに1万円賭ける〉

〈コユミちゃん、加勢した方がいいんじゃない?〉


「そ、そうですね! 今から加勢を……」


「死にたいならお望みにしてやるよぉ!!」


「えっ?」


 私が加勢しようとしたその瞬間でした。


 何と赤髪の女の子が拳を振るいあげ、ダークリザードを地面に叩き込んだのです。

 そして後ろから迫ってくる別個体に回し蹴りをして、一瞬にして沈黙。


 ………………す、すごおおおおおおおおお!!?


 あの人、武器がないんですよね!? 素手ですよね!?

 それなのに、瞬時に2体のダークリザードを始末するなんて……チート!! 完全にチートです!!


〈おいおい見たか今の!?〉

〈アイツ、素手でクリーチャーを倒してやがる!!〉

〈どんな攻撃力してんだ!?〉

〈ファッ!?〉

〈てかよく見ると、プレイヤー笑ってね?〉

〈あの女……戦いを楽しんでやがる!!〉


 リスナーさん方も、私と同じように騒然となっているようです!

 さらに赤髪の女の子が、まだ息のあったダークリザードの尻尾を掴んで、



 ブチブチブチィ……!!!



 ――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


〈イヤアアアアアアアアアア!! 尻尾を引き抜いたあああ!!!〉

〈しかもやっぱり笑ってやがる!! KOEEEEEEEEEEEEEEEEE!!〉

〈ファアアアアアアアアアア!!?〉

〈ああっ!! 両腕もお!!〉

〈オワアアアアアアアアアア!!?〉

〈くぁwせdrftgyふじこおlp!!〉

〈とてもじゃないが子供には見せられない!!〉

〈ていうかこれ動画に映っているし大丈夫なのか!? 色んな意味で!?〉


 …………こ、こ、こわああああああああああああああ!!!


 彼女はまるで楽しんでいるかのように笑みを浮かびつつ、ダークリザードの両腕尻尾を引き抜いているのです!!


 まるでその姿は……そう、戦闘狂です!! 

 今行っている戦闘も、もはや虐殺のそれです!!


「フフフ……ハハハハハハハハハ!! 最高じゃんコレ!! こういうのを待っていたんだよ!! マジ最高!!」


 ダークリザードの返り血を全身に纏いながら、高笑いをする赤髪の女の子。

 やがて彼女は何かを思い出したかのように素材を拾い、そのままログアウトしていきました。


 残された私は、ただただ呆然とするしかありません。


「……まさか見物のつもりが、あんな壮絶な場面に出くわすとは……」


〈コユミちゃんに同意見です〉

〈俺、結構な数の《クリワイ》動画見たけど、あんなに戦慄を覚えたのは初めてだわ……〉

〈あんな奴がいるなんてなぁ……〉

〈賭けに負けました。お納め下さい。〔¥10000〕〉

〈もしやチート(俗語)じゃなくてチート(本物)か? 消されるんじゃね?〉

〈いや、そういうのやったら運営がすぐに気付く。そういうの厳しいし〉

〈じゃあ、俺達の知らないスキルを持っているという事か、アイツは?〉

〈そりゃあ、本人に聞かない事には……〉


「……考察を交えての意見のところ申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか?」


〈ん?〉

〈どうしたの、コユミちゃん?〉


「……失礼ながら私、あの人の戦闘スタイルには恐怖を抱きました。だけどそれ以上に……」


〈それ以上に?〉


「魅力を感じています!!」


〈えええええええええええ!!?〉

〈一体どうしたの、コユミちゃん!!?〉

〈おぞましいものを見すぎて、コユミちゃんのSAN値がおかしくなった!?〉


「おかしくなっていません! 本音です!」


 先に言ったように、赤髪の女の子の戦い方はあまりにも暴力的で、戦闘狂を思わせるものがありました。

 そして彼女の戦闘は虐殺のそれという、これまた他ハンターになかったものです。

 

 正直まだ怖いです。

 怖いのですが、インパクトある動画を提供する配信者として魅力を感じせざるを得ないんです!


「長年、色んな配信者さんのプレイを見てきた私ですが、あれはまさしくインパクトのある戦い方と思うんです。もしかしたらあの人には、があるのかもしれません!」


〈まぁ言われてみれば……〉

〈クリーチャーを圧倒して戦うよりも面白いかも〉

〈ああいうのがまたあったら見たくなるな、絶対〉


 どうやらリスナーさんの方々も同じ気持ちのようで、私は安心しました。


 それにどうも、私の配信者としての勘がうずいているようです。

 彼女が配信者をやっているのかは分かりませんが、もしそうではなかったとしたらこのまま埋もれるのはもったいない。もっと彼女の事を多くの人が知るべきなんだと。


 もし彼女が配信に興味がないのでしたら、それはそれで結構です。

 私を通じて、その虐さ……戦闘を多くの人に見せてもらうまでです!


「僭越ながらリスナーさんの皆様! 自身のプレイの傍ら、あの女性ハンターさんの接触を行おうと思います! あの人をこのまま野放しには出来ませんからね!!」


〈野放しって言っちゃったよ、この人〉

〈でも接触すんのか! どうなるのか楽しみだな!〉

〈応援していますぞ、コユミちゃん!!〉


「ありがとうございます!! よろしければ、チャンネル登録と高評価よろしくです!」


 フフッ、まさかこうなるとは……しかしワクワクもします!

 待っていて下さいね、赤髪のハンターさん!

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